デジタルバリューシフト

解消すべきは心理的不満--ワークスタイル変革が失敗する理由

林大介 2014年11月12日 07時00分

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 連載第2回に続き、第3回もワークスタイル変革について取り上げる。第2回でワークスタイル変革とは従業員価値を最適化することであると説いたが、本稿ではより具体的な考察を加えていく。これまでも企業は従業員の価値を高めるためにさまざまな投資をしてきたはずだが、果たしてそれは従業員の目にはどのように映っているのだろうか。

先進国中最低の労働生産性

 まずは図1をご覧いただきたい。日本の1日平均有償労働時間は10時間近くで、先進主要国(英、米、仏、伊、独、加、日の7カ国)の中でも断トツに長い。これにはいわゆる「サービス残業」は含まれていないので、実態としてはこれよりももっと深刻な数字であると推定される。


 朝9時に出社し、昼に1時間の休憩をはさんで20時頃退社するという生活が日本人の労働の一般的な姿なのだ。個人差があるのはもちろんだが、概ね実感に近い数字ではないだろうか。そして、これだけの長時間労働にもかかわらず、経済協力開発機構(OECD)に加盟する34カ国の1人あたりの国内総生産(GDP)の比較では18位に低迷している。さらに、1人1時間あたりのGDPでは2003年からずっと20位という成績で、先進主要国の最低水準から脱却できずにいる。

 連載第2回でも触れたが、これから日本は少子高齢化が進み、労働人口が減少するのは避けられない。労働生産性を改善できなければ更に労働時間の長時間化が進み、現在よりも深刻な状況に陥ってしまうだろう。

ICT環境への不満がシャドーITの引き金を引く

 確かに日本の労働生産性は良くないかもしれないが、企業も指をくわえて黙って見ているわけではない。企業のICT投資はさまざまな目的でなされるが、従業員の生産性を向上させる投資もあったはずだ。スマートデバイスの導入がその典型例といえる。

 しかし、従業員が十分に満足を得られる環境を準備することは容易ではない。企業が構築するICT環境である以上、あるレベルのセキュリティを確保しなければならず、それは一般的には利便性を損なうものだ。そして、従業員の自社のICT環境に対する期待レベルも高くなるだろう。なぜならば、業務ではない「普段」のICT環境の方がはるかに利便性が高くなってしまったからだ。つまり、従業員が自社のICT環境に不満を持つことは避けられないのだ。

 こちらの記事をご参照頂きたいが、ある調査では自社のICT環境に不満を持った従業員のうち、なんと4割もの従業員が何らかの形でシャドーITに走るという結果が出ている。一部の従業員によるクラウドサービスの勝手利用や私用端末の業務利用により、主に情報漏えいのリスクが高まっていたとしても、「シャドー」というだけあって実態が掴みにくい。気がついたときには「時既に遅し」ということも十分にありうる。

 また、シャドーITはこういった「個人型」だけではなく、事業部門が勝手にクラウドを使い始めてしまったという「集団型」として露見することもある。団体型シャドーITの場合、個人型と異なり情報漏えいのリスクは相対的に少ないかも知れないが、代わりに社内リソースやスキル、ナレッジの断片化リスクが高まってしまうだろう。

 いずれにせよ、個人型でも集団型でも、シャドーITの引き金となるのはICT環境への不可避な不満である。では、従業員をシャドーITに走らせないためには、具体的にどのようなアプローチが有効だろうか。

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