アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議は、目標に掲げるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の推進を強調した。

 APECに参加する21の国と地域は、世界のGDPの6割近くを占め、経済成長を引っ張る。停滞が続く世界貿易機関(WTO)での多角的貿易交渉を支え、後押しする存在でもある。方針を歓迎したい。

 そのFTAAPへの道のりは、ゼロから出発するわけではない。東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓3カ国)、さらにインド、豪州、ニュージーランドを加えたASEANプラス6、そして環太平洋経済連携協定(TPP)という、既存の取り組みを発展させることを、4年前の横浜でのAPECで打ち出している。

 現在、もっとも進んでいるのはTPPだ。TPPの交渉参加12カ国はすべてAPECのメンバーでもあり、TPPの成否がFTAAP実現の時期を左右する。

 TPPでも首脳会合が開かれた。年内の大筋合意は断念し、来年も交渉を続けることになった。未決着の課題ごとに交渉の期限を定めたというが、全体の妥結時期は示せなかった。

 このままでは、枠組み自体が漂流しかねない。TPPを主導する米国では、来年後半には16年の大統領選挙に向けた動きが活発化し、通商交渉は二の次になるからだ。

 残された時間は多くない。各国首脳、とりわけ米国のオバマ大統領と日本の安倍首相の決意と指導力が問われよう。

 わが国にとっても、経済連携でアジア太平洋地域の活力を取り込むことが、今後の経済成長に不可欠だ。輸出の8割近く、輸入の6割超、直接投資の相手先の7割がAPEC地域(金額ベース)であり、まずはTPPをまとめねばならない。

 中韓両国が自由貿易協定(FTA)で実質的に妥結するなど、動きは急だ。わが国は日中韓のFTAに注力してきたが、戦略の練り直しを迫られる。

 引き続き日中韓3カ国の枠組みを大切にするとしても、特に韓国は日本とのFTAに消極的だ。自国の弱点である部品や機械分野で日本からの輸入が増えることを警戒しており、かつて日韓FTA交渉が暗礁に乗り上げた構図は変わっていない。

 中韓両国ともTPPへの関心は強い。むしろTPPをまとめることが、中韓を含む経済連携への近道と考えられないか。

 さまざまな視点から、TPPの重要性を肝に銘じたい。