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☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.11.12 vol.199
3Dプリンターとスマホが可能にした「個性に合わせて使える」義手とは?
――筋電義手「handiii」開発者インタビュー
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3Dプリンターとスマホが可能にした「個性に合わせて使える」義手とは?
――筋電義手「handiii」開発者インタビュー
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本日のほぼ惑は、「PLANETS vol.9(東京2020)」のオルタナティブ・オリンピック/パラリンピック・プロジェクトとも関連する、筋電義手「handiii」制作者へのインタビュー記事をお届けします。スマホや3Dプリンターのような情報技術の発展が生み出した、「人の手を超える」ポテンシャルを持つ筋電義手というプロダクトの核心に迫ります。
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▲筋電義手「handiii」
筋肉から出る電気(筋電)を測定し、そのパターンや数値をスイッチとして動かす義手を「筋電義手」と呼ぶ。トレーニングを積むことで指先まで自由に動かすことができるが、高価なことや仕組みが複雑でメンテナンスが難しいことなどから、一般的な普及にはいたっていない。しかし2013年、日本の3人の若者が3Dプリンターで開発した筋電義手「handiii(ハンディ)」が、エンジニアの育成と支援を目的とした国際コンテスト「ジェームズダイソンアワード」に入賞し話題となった。
2014年、務めていた会社を辞めて「exiii(イクシー)」を設立した3人に、「handiii」制作にいたった経緯やコンセプト、見据えている理想像を聞いた。
(聞き手・構成:田島太陽)
▲handiiiを制作した山浦さん、近藤さん、小西さんの3人
▲handiii ~accessible myoelectric hand prosthesis~(1分でわかる紹介動画)
▼筋電義手「handiii」とは?
handiiiでは筋電を測る装置を腕に3枚貼り、データはBluetoothでスマホに転送。スマホ上では、装置を貼った3箇所からそれぞれどの程度の筋電が出ているかが三角形にして表示され、その形によって義手の動かし方をマッピングする。
たとえば、大きな三角形ができたときは義手がグーになる、小さな三角のときはチョキ、と登録しておけば、そのマッピング通りに筋肉を動かすことで義手を自由に操ることができる。
筋電は体のどこからでも測ることができ、腹筋や足の筋肉から測定して義手を動かすこともできる。計測するポイントを増やせばさらに複雑な動きも可能となるが、処理スピードなどの関係上で現在は3つに設定されている。
これまでの筋電義手はデザインを無視している
――そもそも、なぜ筋電義手の研究を始めたのでしょうか?
近藤 大学4年のとき、日本の筋電義手の第一人者である横井浩史先生の研究室に入ったのがきっかけですね。船舶工学や金融工学など選択肢はいろいろあったんですが、僕は横井浩史先生にとても魅力を感じていて。研究分野というよりも、まずは先生個人への憧れがあった、というのが正直なところです。
――当時のロボティクス分野はどういった状況でしたか?
近藤 2008年ごろで、脳科学ブームが一番盛り上がっていましたね。脳波で物を動かすことも流行っていた時期です。一方で、2000年代前半に注目されていたアイボやアシモなどの自律型ロボットブームが収束して、下火になったころでもあったと思います。その影響もあり、僕も自律ロボではなくサイボーグ、人とメカの融合がおもしろいんじゃないかと考えていました。
――その中でもあえて筋電義手だったというのは?
近藤 僕の個人的なバックグラウンドは機械学習や人工知能なんです。これはセンシング(計測)、学習、制御に分かれていて、それぞれが正確に機能しないとうまくいかない。そのアウトプットとして、手の動きはものすごく複雑なので挑戦しがいがあると思ったんです。
――人間の体でも、部位によってかなり難易度が違うんでしょうか?
近藤 そうですね。たとえば足だと、筋肉の数は少ないけど安定性が求められます。でも手は、いかに複雑な動きを可能にするかが重要になってくる。どちらが難しいかではなく、解く問題がまったく違うんですよね。
――なるほど。でも大学を卒業後は就職されるんですよね。
近藤 2011年まで研究室にいて、それからソニーに入社しました。
――そこから今年起業にいたったのは?
近藤 きっかけとしてあったのが、3Dプリンタやスマホの進化です。まだ学生だった5年くらい前だと、筋電を測るには専用の大きなPCが必要で、キャスター付きの台に乗せてガラガラ運んでいました。でも今だったらスマホで十分まかなえるんじゃないかと思って、筋電を測るアプリを個人的に作ったんです。同じころ、大学の先輩だった山浦さんが3Dプリンタで作ったロボットをfacebookにアップしていて、だったら一緒になにかやりましょうと声をかけて。それが2013年の6月くらいで、その後東京で会ったとき「目標があったほうがいい」という話になり、ダイソンアワードに出すことを決めました。8月末が締め切りだったので、2ヶ月で試作品を作りましたね。小西さんが合流したのもそのころです。
山浦 僕と小西はパナソニックの同期なんです。僕は機械設計、彼はデザイナーという役割でしたが、すごく気も合う仲間だったので、仕事以外でも一緒になにか作りたいねという話はよくしていて。それでダイソンアワードに出すことを決めたとき、声をかけました。
――ということは、筋電義手へのモチベーションは近藤さんが発端だったんですね。
近藤 はい、学生時代に抱いていた問題意識は2つありました。1つは、これまでの筋電義手はデザインを無視していること。デザインがないと使いたくならないし、注目もされないんですが、日本の工学系の研究室にはその意識が希薄だと思っていました。もう1つはコストが合わないこと。義手が必要な人は日本で数万人と言われているんですが、その数だと市場としては小さすぎてビジネスが成り立たないんです。だから自治体が負担しないといけないし、率先して開発しようという機運も出てこない。その2つを解決したいなと思っていました。でも僕もまだ未熟だったし、まずは企業に就職して学ぼうということでソニーに入りました。
山浦 その後、昨年のダイソンアワードで受賞できたこともありますし、思い切って会社を出ようということで、今年の夏に「exiii」という社名で立ち上げました。「i」が3つなのは、僕ら3人を意味してるんです。
義手はマスプロダクションではない
――3Dプリンタを使うメリットはどんな部分でしょう?
山浦 まずインパクトが大きいのは、価格の安さと加工が容易なことですね。出力時間が短いので、部品が手に入るまでのスパンも短くできるんです。
近藤 これまでは一人づつ石膏で型を取りソケットを作っていたわけですが、技術も必要ですし時間もかかります。でもプリンタがあればどこでも作れるわけで、導入コストという意味でもかなり敷居が下がります。handiiiはモーターとビス以外すべて3Dプリンターで作られているので、たとえば途上国にプリンターを持っていけばその場で作ることもできるわけです。
山浦 壊れてもすぐ取り替えられる、ということもメリットになりますね。
――なるほど。型をプリンターで作るのではなくて、プリンターだけで最後まで完結しているんですね。
近藤 そうですね、これからプリンターももっと進化するでしょうし。
――手に障害がある人もみんな同じ腕の形ではないから、それぞれに合うものを安価に作れる方が適していると。
近藤 おっしゃる通りで、義手はマスプロダクションではないんです。お金をかけて型を作っても、他の人にはあてはまらないことが多い。大きな市場ではないからこそ、1人1人に合ったものをその都度プリンターで作った方が対応できるのかなと思います。
小西 多品種少量生産の極限ですね。
近藤 将来的には各家庭に1台3Dプリンターがある日も来るかもしれないし、コンビニに行けば使えるようになるかもしれない。現在でもDMMにデータを送れば作ってくれるサービスがありますし、これからさらに需要が増えると思うんです。
――ソケットももう制作しているんですか?
近藤 まだこれからですね。作り始めてはいるんですが、実際にどこまで扱えるかというテストはこれからです。
小西 実際のソケットは義足でも義手でも、石膏で微調整しながら作るんです。腕を曲げたときでも伸ばしたときでもフィットしていないといけないので、かなり繊細で緻密な作業が必要になる。でもデジタルだと静止した状態でのスキャンになるので、使える型ができるのかどうかはまだ未知数ですね。でもうまくいかなかったとしても、これからいろいろと模索して、インタラクティブに考えていきたいですね。
“手を超えるもの”にしよう
――デザインの面でも3Dプリンタを使うメリットはありますか?
小西 これまでは抜き勾配(※)まで細かく考えて設計しないといけなかったのが、3Dプリンタだと短いスパンで形にできる。時間も手間もかなり短縮されましたね。
※金型から成形品をスムーズに抜き取るために必要な勾配のこと。これがない場合、金型から外すことができなくなる。
――デザイン的にはどのようなコンセプトを持ってらっしゃいますか?
小西 筋電義手はこれまで100万から300万、高ければ700万円はしたんです。これは時計で言えばロレックスです。比べて、handiiiなら3万円で作れるので、腕時計で言うスウォッチにしようというコンセプトでした。部品の交換が簡単にできて、スポーツ用にグリップを付けたり、カラーバリエーションを増やしたりして、個性に合わせていろいろな場所で使える義手にしようと。一眼レフのレンズ交換のイメージにも近いですね。
近藤 たとえば、義手の指先にイヤホンを埋め込めば電話にもできるわけで、これは健常者には実現できないことですよね。つまり、義手であることがマイナスではなくプラスになるところまで持っていきたいというのが理想です。だから新しい機能を付加しやすいデザインは意識してますね。
▲handiii3号機(ダイソンアワードやメイカーフェアで活躍したモデル。腕にはダイソン氏のサイン。)
――マイナスではなくプラスになる、という発想がすばらしいですよね。PLANETSとしても義手・義足の可能性はそこにあると思っていて。しかも3Dプリンターを使うことで、義手がさらに身近になって普及も進むという考え方ですよね。
山浦 そうですね。近藤君の知り合いに生まれつき手のない方がいて、その人はずっと手がない生活をしてきたから日常生活ではなにも困ることはないんです。だから、数百万円もかけて高価な義手を作るモチベーションは当然ない。でもよく話を聞くと、「雨の日に傘を持つと、携帯にかかってきた電話に出られない」とか「ナイフとフォークを使うレストランに行けない」とか、ちょっとした困りごとはたくさんあるんですよ。だから安い義手があれば便利だし買うかもしれない、という話をされていて。それがスタート地点でした。
近藤 義手というのはこれまで、手がないことを隠すものだったんです。でも生まれつき手がない人は今さら隠す必要もない、だから必要ないという考え方だと聞いて、だったら“手を超えるもの”にしようというコンセプトにしたんです。これがマイナスをゼロではなく、プラスにしていく考え方ですね。
(了)
▼現在制作中の「PLANETS vol.9」では、“筋電義手の未来”や“handiiiを普及させる方法”など、宇野常寛とexiiiの3人が交わした真剣な意見交換の模様も掲載予定です。そちらもお楽しみに!
▼現在制作中の「PLANETS vol.9」では、“筋電義手の未来”や“handiiiを普及させる方法”など、宇野常寛とexiiiの3人が交わした真剣な意見交換の模様も掲載予定です。そちらもお楽しみに!
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ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.199
2014年11月12日発行
発行元:PLANETS編集部
編集長:宇野常寛
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