実行しなくても秘密を得ようと話し合っただけで処罰の対象になる。それが特定秘密保護法の罰則に入り込んでいる共謀罪だ。
政府は先日、法の運用基準を閣議決定した。ただ、罰則は基準の対象外。昨年12月の法成立時から何も変わっていない。
再来月に施行されれば、「合意」という人の心の中まで取り締まりの対象になる。戦前の治安維持法のように思想信条の自由を侵しかねない重大な危険をはらむ。
日本の刑事法は治安維持法時代の反省から、犯罪の実行行為があって初めて罰することを原則としている。「共謀共同正犯」として罪に問う判例があるが、これも実行者がいて初めて、共謀者に同じ刑事責任を負わせるものだ。
秘密法の共謀罪は誰一人実行していなくても、準備さえしていなくても、合意があった時点で成立する。暗黙の了解も合意に含まれるとされる。捜査の手は心の動きに及ぶ。
実行されてもいないことをどうやって取り締まるのか。考えられるのは密告と盗聴だ。
密告については、促す仕掛けが法に施されている。共謀で自首した場合、「刑を減軽し、または免除する」との規定だ。刑の免除を条件に1人を自首させれば、残りの者を一網打尽にできる。
盗聴については、秘密法と軌を一にして進んだ動きがある。法相の諮問機関、法制審議会が先月、新たな捜査手法導入のための法改正要綱を答申した。
法制審の特別部会はもともと、冤罪(えんざい)防止を主目的に議論を始めた。有効な方法として取り調べの録音・録画(可視化)が提案されたが、捜査機関側が「供述を得にくくなる」と抵抗した。
結局、全事件の3%に満たない裁判員裁判の対象事件などに限って可視化を認める代わりに、通信傍受法の対象を拡大するなど捜査側に有利な手法を盛り込むことになった。
通信傍受法は捜査で電話の盗聴やファクス、メールの閲覧を認める法律だ。これまでは薬物など4類型の犯罪に限ってきたが、今回の答申では殺人や詐欺、窃盗など9類型を追加。NTTなど通信事業者の立ち会いも不要とした。
法務省は答申を基に来年の通常国会に法改正案を提出する方針だ。秘密法が施行されれば、共謀罪も通信傍受の対象に加えられる懸念が強まる。