Listening:<ありのままで>性的マイノリティーと学校 選べぬ中学、苦痛分かって
2014年09月29日
制服やトイレ、体育の授業といった「男か女」に分けられることが多い学校で、性同一性障害、同性愛(非異性愛)などの性的マイノリティー(LGBT)の子や教員は、誰にも打ち明けられずに悩みを抱えているケースが多い。20人に1人はいるとされる当事者の体験や周囲の理解の広がりを今回から3回にわたって連載し、学校での対応を考える。初回は、当事者の学校時代の体験から、彼らの思いをお伝えする。
<関東地方の高校1年 ユウキさん(仮名、16歳)>
ユウキさんは、体は男性だが、自らは女性と感じている。小学生の頃、体育の授業の着替えで男子グループに入れられ、違和感があった。中学で男子の制服を着ることが苦痛だった。心を殺し、下校時は校門を出ると団地の建物の陰で制服を脱いでから帰宅した。
立って用を足すことがどうしてもできなかった。トイレの個室を使っていると、同級生がドアをよじ登ってのぞこうとしたり、上から水や殺虫剤をかけられたりした。
●トイレでいじめ
担任教師はいじめを知りつつ見て見ぬふりをした。思い切って相談すると「お前が校則を守らないからだ」と怒られた。「いじめからかばってくれた友人がいじめられ、学校に姿を見せなくなった。つらくて償うために死のうとも思ったが『男』のまま死にたくはなかった」
上半身裸になる水泳の授業。「プールに入りたくない」と言ったら体育教師から「入るのが当たり前」と一蹴された。修学旅行では、同級生のいない時間に、ひとりシャワーを浴びた。
高校で転機が訪れた。制服のない学校を選んだ。事情を学校に伝えると「今までも5、6人同じような生徒がいた」と受け入れてくれた。女子生徒として通学することになった。今ではダンス部で活躍。トイレは「身障者用を使っていい」と言われている。「中学時代の先生にもっと受け入れてほしかった。『困ってることある?』と聞いてくれたら、どれだけ救われたか」
<神奈川県の高校1年 ジュンさん(仮名、16歳)>
ジュンさんは、体の性は女だが自認する性は男だ。中学時代、制服のスカートがはけなかった。体育や音楽、そして教室の席まで男女別。学校に行けなくなった。インターネットで調べると、LGBTや「FTM(女性として生まれ、性自認が男性の人)」という言葉があることを知った。「これだ」と確信した。
●服装希望かなわず
不登校の理由を聞く担任教諭に「スカートの下にジャージーをはきたい」と希望した。性同一性障害は理解しているようだったが「そんなの正当な理由じゃない。学校ではどうにもできない」。結局、定期テストの日だけジャージー姿で別室登校し、卒業した。
高校は制服がない学校を選んだ。合格が決まると、学年主任と養護教諭に事情を話した。教師全員に説明済みで、本名ではなく希望した男っぽい通称で呼ばれている。体育は男女一緒で着替える場所も自由だ。将来はスクールカウンセラーになって、自分のような子の相談に乗ってあげたいと思う。「高校は選べても中学は地元で通うので選べない。少しでも違いを認めてくれたら」
◇先生のフォローあれば、周囲は変わる
LGBTの自殺防止に取り組む民間団体「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」は昨年、LGBTの若者約600人に初めて学校生活調査を実施した。約7割がいじめや暴力を受けた経験があり、そのうち約3割が「自殺を考えた」と答えた。深刻な実態が明らかになった。
2004年に特例法が施行されたことを背景に、文部科学省は10年、性同一性障害の児童・生徒について、教育相談を徹底し本人の心情に十分配慮した対応をするよう都道府県教育委員会などに通知した。しかし、全国の小中高校などを対象に昨年実施した実態調査では、学校が把握した事例に限っても、特別な配慮をしている割合は6割にとどまった。性同一性障害以外の性的マイノリティーは通知や調査の対象になっていないが、配慮が必要なのは当然だ。
東京都の男性(23)には忘れられぬ記憶がある。ゲイで、中学時代から男子だけの場に苦痛を感じた。中学2年での内科検診。上半身裸で待つのが嫌で担任教諭に相談した。「男らしくないこと言うな」。職員室中の教員に笑われた。養護教諭を目指している男性はこう思う。「学校も『異性が好き』が基本になっているが、そうじゃない子もいる。一言でもフォローしてくれる先生が増えてほしい」
一方で、高校の授業で「救われた気がした」というレズビアンの東京都の会社員(22)。家庭科で結婚がテーマになった時、教諭が「世の中には同性をパートナーにする人もいる」と説明してくれたのだ。「先生は、同性愛を笑いのネタにせず、からかう生徒がいたら『差別だよ』と注意してほしい。ちょっとしたことから周囲の意識は変わるはずだから」【藤沢美由紀】
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◇性的マイノリティー(LGBT)
性を構成する要素の、生物学的な性▽自らの性別の考え方▽どの性別が恋愛対象か−−といった要素が多数と異なる人を指す。レズビアン(女性同性愛者)▽ゲイ(男性同性愛者)▽バイセクシュアル(両性愛者)▽トランスジェンダー(性別越境者。性同一性障害を含む体と心の性が一致しない人)などで、その頭文字から「LGBT」と称されることもある。ホモ、レズといった呼称は、当事者以外が使うと差別的表現になる可能性がある。日本精神神経学会は今年、「性同一性障害」を「性別違和」と名称を変えた。
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<LGBTの子供が困る可能性が多いこと>
◇男女で分けられているもの
トイレ、着替え、制服、健康診断、宿泊行事、音楽のパート分け、体育、敬称(さん、君)、一人称(僕、私、俺)、持ち物の色、名簿、席順
◇男女で二分したり、異性愛を前提としたもの
保健・性教育、家庭科、道徳、男らしさ・女らしさを押しつけること、恋愛の話、進路指導や人生設計
<教員が相談を受けた際のポイント>
・セクシュアリティーを決めつけない。
・「話してくれてありがとう」と伝える。
・何に困っているのか聞く。
・誰かに話しているか、話していいかを確認する。
(本人の同意なく第三者に伝えない)
・支援・相談機関などにつながる情報を伝える。
・最適な対応は一人一人違うため、子供との対話の中で対応を考えていく。
<教員が今日からできること>
・LGBTに関する本を学級文庫や図書室に置いたり、ニュースについて教室で話したりする。
・学級通信など配布物や掲示物で情報発信する。
・身近にいるLGBTの人のことを話す。
(NPO法人「ReBit」作成の資料より要約)
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◇無料電話相談窓口 よりそいホットライン
0120・279・338(24時間)
※LGBTのための専門回線がある。
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