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朝日新聞出版

「ノーベル賞候補」最後のメール 笹井氏を追い詰めた孤立無援

2014年08月21日
(6500文字)
週刊朝日

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 幼少期から「神童」ぶりを発揮し、有名進学校から京大医学部へ。その中でも群を抜いて優秀だった研究者が、一つの論文のつまずきで、あっという間に転落していった。行方不明となった末に、職場の関連施設で自殺した姿で見つかった彼を、そこまで追い詰めたものは何だったのか。四面楚歌の中で彼は何を見つめ、考えていたのか。誰もがもどかしさを感じる中、STAP細胞論文の真相と、科学界の損失を惜しむ声だけが残された。

◇「元気ではないけど、生きています」笹井氏最後のメール/自殺直前、行方不明になっていた
◇「決断できなかった野依理事長の責任は重い」/岸輝雄


「元気ではないけど、生きています」笹井氏最後のメール/自殺直前、行方不明になっていた

 STAP細胞論文の主要著者の一人で、衝撃的な自殺を遂げた理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の笹井芳樹副センター長(52)の遺族が8月12日、弁護士を通じ、「あまりに突然の出来事を受け入れることができないでおります。この半年があまりに長く、私どもも疲れ切っております。今は絶望しか見えません」とのコメントを発表した。
 会見した弁護士によると、妻と兄宛ての遺書2通が残されており、「今までありがとう」などの感謝の言葉が書かれていたほか、「マスコミなどからの不当なバッシング、理研やラボへの責任から疲れ切ってしまった」など自殺の理由が記されていたという。
 本誌の取材で謎に包まれた笹井氏の自殺前の行動がわかってきた。死の数日前に行方不明になり、家族が捜し回っていたというのだ。大阪府内に住む笹井氏の母親の知人女性が明かす。
 「芳樹君が亡くなる3日前、お母様と電話でお話ししました。その時、『芳樹がどこにいるか、居場所がわからなくなっていて、家族で捜し回っていた』と困惑されていました。大丈夫ですか、と尋ねると、お母様は『(医師の)兄さんが〈無事か〉と出したメールに芳樹から〈元気ではないけど、生きています〉という返事がとりあえず来たので安心した』と。私があまりクヨクヨしたらあかんよ、と言うと、『STAP細胞の問題に早くケリをつけて、やり直してほしい』とおっしゃっていた。その矢先に、報道で自殺を知り、本当に驚きました」
 この知人によれば、笹井氏は母親に、STAP騒動についての本音をこう吐露していたという。
 「あの子は、週刊誌などに書かれた小保方晴子(30)さんとの仲などについて、『あんなことは絶対ないから信じてほしい』と言っていた。理研について、『クビにするならしてくれればいいのに。アメリカで研究したいのに、なかなか切ってくれない』と愚痴をこぼしていた。お父さんも何でも人の責任をみんな負う人だったから。芳樹はああ見えて要領が悪いから、お父さんに似なければいいけど……」
 5年前、息子に「ノーベル賞を期待する」と誇らしげに語っていた母が感じた不安は、不幸にも的中してしまった。
 自殺現場に置かれたカバンからは、STAP細胞の検証実験に参加中の小保方氏、CDBの竹市雅俊センター長(70)ら幹部、研究室メンバーなどに宛てた3通の遺書が、研究室の秘書の机の上からも、総務課長と人事課長に宛てた遺 書のようなものが発見された。小保方氏への遺書の内容について、理研関係者はこう語る。
 「『小保方さん』と手書きされた封筒入りで、パソコンで作成された文書でした。『1人闘っている小保方さんを置いて、先立つのは、私の弱さと甘さのせいです。あなたのせいではありません。自分のことを責めないでください。絶対、STAP細胞を再現してください。それが済んだら新しい人生を一歩ずつ歩みなおしてください』などと、彼女を気遣うような内容でした・・・

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「ノーベル賞候補」最後のメール 笹井氏を追い詰めた孤立無援
216円(税込)
  • 著者週刊朝日編集部・上田耕司、今西憲之、牧野めぐみ、小泉耕平、横山健、福田雄一
  • 出版社朝日新聞出版
  • 出版媒体週刊朝日

幼少期から「神童」ぶりを発揮し、有名進学校から京大医学部へ。その中でも群を抜いて優秀だった研究者が、一つの論文のつまずきで、あっという間に転落していった。行方不明となった末に、職場の関連施設で自殺した姿で見つかった彼を、そこまで追い詰めたものは何だったのか。四面楚歌の中で彼は何を見つめ、考えていたのか。誰もがもどかしさを感じる中、STAP細胞論文の真相と、科学界の損失を惜しむ声だけが残された。[掲載]週刊朝日(2014年8月22日号、6500字)

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