戸籍がない人が全国に少なくても279人いる。法務省が先月、初めて明らかにした。

 さまざまな事情で、親が子どもの出生を届け出られなかったことによるものだ。

 個人情報保護を理由に報告を控えている自治体も多い。戸籍がない人に自治体の裁量で住民票をつくったケースが年平均で500件以上あり、氷山の一角とみた方がいいだろう。

 戸籍がなくても、自治体がその人の存在を把握している限り学校に通う、予防接種を受けるといった公的サービスは利用できる。一方で、旅券の取得は難しく、就職、結婚など人生のさまざまな場面で不便や混乱が生じるのは否めない。子どもの存在が隠され、虐待につながる可能性もある。国や自治体は、実態の把握と対策を急ぐべきだ。

 出生届を出すことをためらわせる最も大きな要因は、生まれた子どもの父を、母の妊娠時の結婚相手だとみなす民法の規定である。

 母が法的な夫以外の男性との子どもをもうければ、出生届を出すと戸籍上は夫の子になる。

 結婚生活が破綻(はたん)した場合、離婚した上で新しいパートナーと新生活を始められればそれにこしたことはない。だが、実際には夫の家庭内暴力(DV)から逃げていたり、離婚手続きがなかなか進まなかったりするなど、ままならない状況もある。父を早く確定することで子の保護を図るための規定が、無戸籍を生むジレンマがあるのだ。

 いったん夫の子として戸籍を作った上で、家裁で父子関係を断つ手続きを進める選択肢があるが、夫の協力が必要で、現実的でないケースもあるだろう。

 ここは、実態に沿って父親を確定できるしくみを考えたい。

 まずは生まれた子の存在を公的に確認することを最優先し、父親の欄を空けた状態で出生届を受け付けられないか。

 また、いまは夫は出生を知ってから1年間、父親であることを否認できる。これを子や母からも可能にし、子どもが成長してからでもできるよう、期間も延長することを検討すべきだ。

 成人しても無戸籍状態の人がいる状況も浮かんでいる。

 9月には32歳の無戸籍の女性が家裁に申し立てた結果、母の元夫を父親としない戸籍ができた。時がたつほど母や実父の死などで立証は難しくなるが、家裁は救済を重視した判断を重ねてほしい。

 兵庫県明石市は無戸籍で学校に行けなかった人向けの教室を始めた。失ったものを少しでも取り戻す助けとして広めたい。