コラム:日銀追加緩和の「マラドーナ効果」=嶋津洋樹氏
嶋津洋樹 SMBC日興証券 シニア債券エコノミスト
[東京 10日] - 日銀の「量的・質的金融緩和」拡大(QQE2)決定から1週間以上が経過した。報道などに基づくと、日銀がこのタイミングで追加緩和に踏み切った大きな理由の1つは原油価格の大幅な下落にあるようだ。
確かに、10月31日の金融政策決定会合後の記者会見における黒田総裁発言からは、そうした点が読み取れる。注目すべき発言は、ざっと以下のようなものだろう。
「短期的とはいえ、(需要面の弱めの動きや原油価格の下落による)現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクもある」
「長年にわたってデフレが続いたわが国では、米国のように予想物価上昇率がすでに2%にアンカーされている国とは異なり、実際の物価上昇率の変化が予想物価上昇率の形成に大きな影響を与えていると考えられる」
「実際の物価上昇率の伸び悩みが続けば、それがどのような理由によるものであれ、予想物価上昇率の好転のモメンタムが弱まる可能性がある」
米国でも10月上旬に原油価格が大幅に下落し始めて以降、ブラード・セントルイス地区連銀総裁が同月中に終了すると見られていた資産購入の規模縮小(テーパリング)の一時停止に言及するなど、一部当局者の発言に変化があった。実際には、米ミシガン大学消費者信頼感指数などで消費者の期待インフレがしっかりと固定されていることが確認され、資産購入は予定通り10月で打ち切られたわけだが、米連邦準備理事会(FRB)が物価安定の目標として掲げる個人消費支出(PCE)デフレーターの伸びが鈍化していることもあり、今でも追加緩和(いわゆるQE4)の可能性が意識されている状況だ。
日本では今のところ、期待インフレの把握に適切な指標が乏しく、今月6日に公表された議事要旨(10月6―7日開催分)でも「他の経済指標と異なり予想物価上昇率は直接観察できないため、これまでも様々な指標をやや長い目で評価してきている」と説明された。上述した通り、日銀は今回、原油価格の下落が期待インフレの下振れにつながることを警戒してQQE2に踏み切った可能性は高いが、それを観察するための共通のインフラが整っていないことに変わりはない。今後、原油価格がさらに低下した場合、市場参加者はそれが追加緩和につながるかを知る術を持っていない。 続く...