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【土曜訪問】

平和あっての冒険 少年、中年の「ズッコケ三人組」描く 那須 正幹さん(児童文学作家)

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 子どものころ、何より夢中になって読んだ本がある。一九七八年に刊行が始まった「ズッコケ三人組」シリーズ(ポプラ社)だ。主人公のハチベエ、ハカセ、モーちゃんの三人が繰り広げる冒険に胸を躍らせた。二〇〇五年からは後日談の「ズッコケ中年三人組」シリーズが書き継がれているが、来年で完結予定という。記者の人生とほぼ同じ期間、三人組を書き続けた作者の話が聞きたくて、山口県防府市に那須正幹(まさもと)さん(72)を訪ねた。

 「つい二、三日前にも、ズッコケを読んどる女の子が突然、大阪から来てね。先生にいっぺん会いたいと」。那須さんは著作そのままの温かな語り口で迎えてくれた。来月刊行の『ズッコケ中年三人組 age49』に盛り込まれる近況や、国内でこの夏、感染が相次いだデング熱に、かつて三人組もかかったことがあるという話(二〇〇〇年刊の『緊急入院! ズッコケ病院大事件』)を楽しそうに物語る。まるで自分の家族の話をするようだ。「そりゃ独身時代から書きよるから。わが子より愛着あるよ」

 もともと「ファンへのお礼のつもりで」書き始めたという「中年」シリーズ。小学六年生を二十六年間続けた三人組だが、四十歳からは一つずつ年を取り、来年で五十歳を迎える。「次作の『ズッコケ熟年三人組』で終わりだから、最後まで書き切れそうでほっとしている。裁判員裁判とか、いじめ問題とか、いろんなことが書けておもしろかったなあ」と感慨深げだ。

 中年になった三人組は、年相応の悩みに直面してきた。モーちゃんは一人娘がいじめに遭い、ハカセ夫妻は高齢出産を決意した。市会議員になったハチベエはシャッター通りになった地元商店街に頭を痛めている。「もっと夢のある話を読みたかった」という手紙も来るそうだが、かつてのヒーローたちが送る等身大の人生に共感し、癒やされるファンは多いはずだ。

 「子ども時代よりスケールは小さくなったかもしれないが、仕事も家庭もある大人の冒険が書けたと思う。でも、最後くらいは花火を一発打ち上げんとなあ」

 那須さんの創作活動の原点には、三歳の時に広島で被爆した体験がある。「三人組があれだけ元気に駆け回れたのは、日本が平和で民主主義の国だから」。ズッコケシリーズでは意識して戦争関連の話を扱わなかったが、戦後の広島の復興を描いた「ヒロシマ」三部作など、戦争や原爆に関する著作は数多い。この夏には、少年兵をテーマにした連作短編を書き上げた。

 「戦争児童文学というと、どうしても空襲とか疎開とか、被害者の立場で描かれる。でも、本当は加害者の立場に立たされた子どももおるんじゃないか。戦争というのは被害だけじゃない、加害の責任もあるわけだから」

 主人公は、戊辰戦争での奇兵隊や二本松少年隊、太平洋戦争の満蒙(まんもう)開拓青少年義勇軍、沖縄戦の鉄血勤皇隊に参加した少年たち。敵兵を殺し、自らも殺される過酷な戦場を綿密な取材で描いた。「子どもたちが想像力を働かして、次の世代が同じ体験をするのは嫌だと考えてくれれば」と願う。

 約十年前から温めていたテーマ。七月の集団的自衛権の行使を認める閣議決定に執筆期間が重なったのは「たまたま」だというが、思うところはある。「僕らが子どもの時、大人はあんな戦争になんで反対せんかったんじゃろうと思いよった。でも今まさに次の世代から、『なんであんなこと認めたのか』と言われるんじゃないか。戦争の記憶が残っとる世代の責任として、筆の力でできることをやっておきたい」

 二作の刊行を前にして気が早いと思いつつ、先の展望も尋ねた。那須さんは「書きたいことはほとんど書いたからなあ」と笑いながら、「次は低学年ものかな」と教えてくれた。

 「いま絵本はすごく出ているけど、小学一年から三年が読むような絵物語が少ない。野遊びの楽しさとか、秘密基地のつくり方とか考えるのもいいな」。そう言って、少年時代を思い返すように目を輝かせた。「子どもがしっかり子どもをやってほしい、そんな願いがあるからね」 (樋口薫)

 

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