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【国際】

壁なき世界実現を 村上春樹氏、独文学賞受賞スピーチ

 【ベルリン=宮本隆彦】世界的人気作家の村上春樹さん(65)にベルリンで7日夜、ドイツの日刊紙ウェルトが主催する「ウェルト文学賞」が贈られた。村上さんは、9日で崩壊から25年となるベルリンの壁にちなんだ受賞スピーチで「壁のない世界」を求め続けることの重要性を訴え、香港の民主派デモに参加する若者を励ました。

 村上さんは十分余りの英語のスピーチで「壁は小説家としての私にとってずっと重要なモチーフだった」「内側の私たちを守るために、他者を排除しなければならないのが壁というものだ」と指摘。ベルリンの壁が崩れた後も、世界には「民族、宗教、不寛容」などさまざまな壁があると述べた。

 「私たちは壁というシステムなしで生きられないのだろうか?」と問い掛けた村上さんは、ジョン・レノンが歌った「イマジン」を引き合いに一人一人が壁のない世界をあきらめずに想像し、求め続けることが大事だとした。

 その上で「壁の中に捕らわれていても壁のない世界について語ることはできるし、努力をすれば見ることも実際に触ることもできる。それがとても大切な何かの出発点になりうる」と語り「このメッセージをいま香港で壁と闘っている若者たちに送りたい」とスピーチを締めくくった。

 村上さんは二〇〇九年にエルサレム賞を受賞した際にも、人間を「卵」に、人間を傷つけ殺すシステムを「壁」に例え「私は常に卵の側に立つ」とスピーチしている。

 ウェルト文学賞は一九九九年に創設。これまでに米国のフィリップ・ロスさんやドイツのベルンハルト・シュリンクさんらが受賞している。

 日本人では初となった村上さんの受賞理由をウェルトは「大都市に暮らす日本人の精神状態を超感覚的な世界へと導く魔術的リアリズムの手法を生み出した」などと説明している。賞金は一万ユーロ(約百四十万円)。

 

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