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<村上春樹さん>「壁のない世界を」独紙文学賞で受賞講演

毎日新聞 11月8日(土)11時33分配信

 ◇「ウェルト文学賞」、香港の若者にエール

 【ベルリン篠田航一】ドイツ紙ウェルトの「ウェルト文学賞」授賞式が7日、ベルリンであり、受賞した作家の村上春樹さん(65)が記念講演した。1989年のベルリンの壁崩壊から9日で四半世紀を迎える今、壁のない世界を想像する力を持ち、その力を持続させる重要性を強調。「今、壁に立ち向かう香港の若者にこのメッセージを送りたい」と述べた。

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 村上さんは英語で約10分間講演。壁崩壊後も世界は米同時多発テロや中東問題などに揺れ続けている現状を述べ「今も民族、宗教、不寛容、原理主義、強欲や不安という壁がある」と指摘。「私たち作家にとって、壁は突き破らなくてはならない障害だ。壁を通り抜け、どこへでも行ける。そう感じられるような小説を私はできるだけ多く書いていきたい」と話した。

 そして「かつてジョン・レノンが歌ったように、私たちには想像する力がある。暗く暴力的な現実に直面する世界で、それは無力ではかない希望に思える。だが、その力は、私たちが気を落とさず、歌い、語り続けることの中に見いだせる」と語った。その上で「今、この瞬間も壁に立ち向かっている香港の若者にこのメッセージを送りたい」と締めくくり、約200人の聴衆から大きな拍手が上がった。

 ウェルト文学賞は99年に創設され、これまでハンガリーのノーベル文学賞作家イムレ・ケルテスさん、米国の人気作家フィリップ・ロスさんらが受賞している。

 村上さんは2009年、イスラエルの文学賞「エルサレム賞」の受賞演説で、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区攻撃に言及し、事実上イスラエルの過剰攻撃を批判。人間を壊れやすい「卵」に例え、「私たちは皆、壁に直面した卵。壁は制御しなければならない」と訴えた。

最終更新:11月8日(土)15時16分

毎日新聞

 

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