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 河村たかし名古屋市長が、市職員の給与を引き上げる市人事委員会の勧告を拒んでいる。中小企業経営の経験もふまえ「庶民の苦しみを反映していない」と批判。15年ぶりの増額勧告を喜んでいた労働組合は「根拠は感覚だけ」と猛反発している。

 「市人事委がちょっといい材料を持って来た。労使で話し合って料理ができたのに、市長が別の料理に作り直せと言い出した」

 7日夜、市職員労働組合連合会(組合員約1万5千人)が初めて「抗議」と銘打った集会。河野義人・中央執行委員長は料理に例えて河村市長を批判し、勧告実施を求めた。市公会堂に約1千人(主催者発表)が集まり、立ち見も出た。

 市人事委は15年ぶりの給与引き上げを9月に勧告。市長が従えば職員の平均年間給与は約7万4千円増えるはずだった。「マイナス勧告は実施してきたのに。勝手な物差しだ」。組合幹部らは壇上で声を上げた。

 市は2002年度から、人事委の勧告とは別に、財政難などを理由に給与、手当の独自削減も続ける。行政職の平均年収(昨年度)は612万円で20政令指定市中16位。トップの北九州市より約50万円少ない。「これまで痛みは受けてきた」(河野委員長)

 地方公務員はスト権が認められないなど、憲法が保障する労働基本権を制限されている。代わりに各自治体の人事委が官民の給与格差を毎年チェックし、首長に是正を勧告する。河村市長の勧告拒否に、市労連は「それなら労働基本権を回復するべきだ」と訴え、市給与課も「憲法に触れる恐れがある」と懸念する。

 一方、市長は勧告の基礎となる「民間給与実態調査」に矛先を向ける。調査方法は国の人事院や、都道府県と政令指定市などの人事委で共通。規模が50人以上の民間事業所が対象で、名古屋市では今年266カ所を無作為で抽出した。

 市長は6日、市人事委に「相当成績のいい企業だけで民間準拠とは言えない」と伝えた。「わしは零細企業の息子に生まれ、そういう目線の市長を市民が選んだ」と持説を展開。市労連は「市長の感覚だけが根拠」と不満を募らせる。

 市当局と組合側は9月の勧告に沿って賃金交渉を重ねてきたが、市長の拒否で妥結目前に中断。市長は若年層の給与を上げ、40~50代を下げる独自案を示す。組合側と話し合う意向だが、河野委員長は「望んでいない」と取り合わない。

 他の自治体でも、ここ数年の引き下げや据え置きから一転、給与引き上げ勧告が相次ぐ。「世間は納得できないのでは」(橋下徹・大阪市長)との声も出る中、河村市長は「勧告に従わない首長がいたら共同戦線をとりたい」と話す。

■ルール変更なら工夫を

 名城大の昇秀樹教授(地方自治論)の話 地方公務員は労働基本権が制限され、代わりに人事委員会が第三者の立場から首長に勧告する形が戦後続いてきた。勧告は尊重されるべきだ。

 ただ、ルールを変える議論は十分あり得る。名古屋市人事委の民間給与調査は、国の人事院の手法にのっとり従業員50人以上の事業所が対象で、中小、零細企業は除かれる。だから調査結果は普通の国民よりやや高くなる。より小さな企業も対象にするには、国や市人事委に市長が働きかければいい。

 中小企業を経営してきた河村市長は、小さな企業の社員は給与が安く労働も過重との思いなのだろう。庶民感覚がわかるセンスは評価すべきだが、既存のシステムを直すわけだから、思いついたら明日からとはいかない。政策化していくことがプロの仕事だ。工夫が足りないのではないか。