異例の経過をたどって、日本と中国の首脳が2年半ぶりに会談することになった。

 首脳会談を待たずに発表されたのは、日中関係の改善に向けた4項目の合意文書。アジア太平洋経済協力会議(APEC)の機会に、安倍晋三首相と習近平(シーチンピン)国家主席が北京で会うための前さばきとなる。そもそも世界第2位と第3位の経済大国の首脳同士が会えない現状こそ異常であり、ことさら慎重な取り運びになったのだろう。

 日中の外交当局が知恵を絞った結果、ようやく関係改善の糸口をつかんだ。大局にたった冷静な判断を歓迎したい。

 この合意文書には、玉虫色とも見える微妙な表現がちりばめられている。

 最大の懸案である尖閣諸島については「緊張状態が生じていることについて異なる見解を有している」と記した。見解の違いがあることを示したに過ぎず、領有権での譲歩はないと読める書きぶりは、日本にとって許容範囲と言っていい。

 中国は、尖閣に領有権問題が存在すると認めた上での「棚上げ」を首脳会談の条件にあげていた。その立場を反映したと主張する可能性はあるものの、隔たりが大きな問題で両国がギリギリの接点を見いだした外交技術と言えるのではないか。

 もとより東シナ海の危険な状況は放置できない。中国の公船の領海侵入や戦闘機の異常接近が繰り返され、軍事衝突への発展が懸念されている。合意文書は「危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避する」と明記しており、防衛当局間のホットラインなどの実現に道筋をつけてもらいたい。

 中国側は、安倍首相が靖国神社に参拝しない確約も求めていたが、「歴史を直視し、未来に向かうという精神」「両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」などの表現になった。

 首相らの靖国参拝は、日本の指導者の判断として慎むべきだ。中国も、日本の過去と結びつける形で国際的な宣伝材料に使うべきではない。戦後70年を前に、互いに自制しながら安定的な関係を築く必要がある。

 なにより、第1次安倍内閣のときに打ち出された日中の「戦略的互恵関係」が、再び盛り込まれたことが重要だ。

 今回の文書や首脳会談で関係が軌道にのると考えるのは早計だろうが、対立を抱えていても共存共栄をはかることは可能だ。双方の慎重な行動によって、この大方針を確かなものにしなければならない。