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 九州電力川内原発の再稼働に向けた地元同意を機に、日本は原発ゼロ社会に別れを告げようとしている。「脱原発」の声は届かず、消え去るのか。滋賀県知事時代に「卒原発」を提唱した嘉田由紀子氏(64)に聞いた。あなたの取り組みは無駄だったのでしょうか。(取材は2014年11月6日)

①卒原発とエネルギー

――在職中に事故が起きた。

 琵琶湖を研究してきた立場からすると、四季のうち三つの季節が風下なんです。研究者の時代から、琵琶湖の水質、生態系を守ろうと言ってきたが、もし若狭地方の原発で万一のことあったら、琵琶湖が汚染されてしまうと思っていました。ただ、知事になって2006年以降、その発言は封印していたんです。ですが、震災が起きて、「私が昔から怖いと思っていたことが福島で本当に起きたんだ」と。

 琵琶湖を預かる知事として、近畿圏1450万人に水を供給する責務を負っていました。だから最初に琵琶湖を汚染するリスクをできるだけ少なくしようと思いました。武村正義知事以降、琵琶湖の水質汚染、生態系の破壊というところで、必死に滋賀県民はやってきた。そこに新たな原発リスクというのが覆いかぶさってきた。よそ事ではない、自分事にしなければ、というのが、あのときすぐに卒原発を挙げた理由です。

――なぜ「即時ゼロ」ではなく、「卒原発」だったのか。

 反対して、なんの手立てもなしに止められない。卒原発というのは時間軸もあるが、手続きですよ。卒原発のためには、エネルギー効率を上げて省エネ化ですね。それで、省エネの努力する時間が必要だと思いました。

 それから、まさに地域で雇用あるいは経済が疲弊したら生活が成り立たない、ローンが払えないという人たちに対して経済を成り立たせるための仕組みも必要。

 電力会社にしたら、そもそも立地するときに地震とか、地殻条件とか、あまり厳しく言われていない。国にその責任を問うことも必要だ。

 合わせて、電力会社の経営が成り立たなくなる。なんらかの形で不良債権化してしまっている原発をどうにか経営的に切り離して、廃炉に持っていくという仕組み、行程づくりを、責任ある政治家として出す必要があると考えました。

――反応は怖くは無かったか。

 経済でも手立てをしたらいいんです。なぜ経済界の人は反発するかというと、電気料金が上がったら困る。一番怖いのは停電したら困る。停電しない手立てとして、関西広域連合のエネルギー担当だったので必死に省エネのプログラムを作りました。電力というのは24時間365日足りないわけではない。真夏でも、ピークの2時間ぐらいをカットすれば、ほかを平坦(へいたん)化できる。即時性を考えるならば、まずは真夏の昼間のピークカット。広域連合として、思いついたことはなんでもやりました。

 一番わかりやすいのはクールシェア。博物館とか美術館とか無料で開放しますから、そこにいって真夏の真っ昼間は家のクーラーをつけないでねって。これは、滋賀県で最初にやりました。そのときに、太陽光発電をつけたら真夏のピークの補助電源になりますよね。なぜ、脱ではなくて卒かというと、卒にはプロセスが必要だから、プロセスの中で順応的に見ていこうと。

 ただ、11年の時には、「本当にブラックアウト(停電)したらどうするんだろう」と心配だったけど、過去3年間、真冬だって真夏だって抜け出たじゃないですか。そしたら、もう再稼働しなくていい、というのが私の今の判断です。再稼働しなくてもやれるじゃないですか。

 関西広域連合の首長たちと、関西の経済界のトップが年に2回ほど話し合いをするんです。大企業は東京に本社を移すんですけど、電気は地域独占なので電力会社は地域に本社を残している。だから、その人たちが政治的経済的パワーを担っているんですよ。関西経済連合会のトップの人たちの話し合いが何度もあり、その都度わたしは訴えているんです。「電気を供給する責任はあるでしょう。わたしは同じように水を供給する責任はある。でも電源の代わりはあるけれども琵琶湖の代わりは関西にはない。水を供給するという重さを皆さん認めて下さい」と。コップ1杯の水が飲めなくなったらどうするんですか、と必死で訴えたけれど、誰も経済界の人はサポートしてくれない。でも、会議が終わってからある社長2人が「嘉田さんの言うとおりやね」ってね。だったら、なんで表の会議で言ってくれないんですかってね。日本政治の疲弊というのは、みんな数の論理でね、パワーを持っている、数を持っている人の顔を見て、自分が本当におかしいと思ったことに声を上げられない。

 わたしは、電源の代わりをみんなで探しましょうよって。合わせて、福井の暮らし、経済、雇用の代わりをみんなで探しましょうよって。でも、琵琶湖の代わりはないんですよ。もし、琵琶湖の水を1トン100円もらうことにして、2兆円くらいのお金にしたら、みんなもう少し関心を持つはずです。関電と同じような水供給会社つくり、「水道料金を払わなかったら水止めます」ってね。民間で琵琶湖の水を供給するようになったらそこにお金が回るでしょ、お金があったら、政治的パワーになりますよね。

――福島の事故から4カ月後、全国知事会議で「卒原発」宣言。全国のキーワードになった。

 ものすごい緊張しました。全国知事会議前の4月に、知事会の会長山田(啓二・京都府知事)さんに今まで知事会議でどういう原発の議論があるが問い合わせました。すると、推進の議論だけなんです。立地自治体として、国に要望する交付金とか、エネルギーの安定供給という話だけで、原発の危険性の議論は全然無いんです。

 ですから、「卒原発」を言う前には、山田さんにも事前に根回ししました。吉村(美栄子・山形県)知事と二人で何人かに呼びかけたけど、結局あそこで、女二人しかいなかったのね。隣に座っていた西川(一誠・福井県知事)さんにも、わたしは立場上琵琶湖を守るためにもこれを言わざるを得ないのよ、って。西川さんは無反応でしたね。

 実は初めて明かしますが、事前の5月に、滋賀県長浜市のホテルで2人で話をしたんです。西川さんは道州制反対でね、女性参画とか、子育て政策、3人目のこども保育料無料とか、すごく良い政策をしてらしたし、同じ気持ちでやっていた。西川さんとは仲良くやりたいと思っていた。