今夜も俺と姉の間には何も起こらない
深夜2時。静まり返った階下にかすかな騒がしさが感じられた。しばらくして、誰かがそっと階段を昇る足音が聞こえてくる。
あぁ、姉が帰宅したのだな、と思った。
一応寝ている家族に遠慮しているのだろうが、こんな時間に帰宅すること自体は褒められたことじゃない。
なんとなく嫌な予感を覚える。
俺が起きていることは廊下側に漏れる室内灯から知れるだろう。今から電気を消したりするのもわざとらしいか。
コンコン。
俺の部屋のドアが小さくノックされる。
やっぱり……、と思いながら振り返ると、許可を得ないまま入室してきた姉の姿があった。
「……何だよ」
「うふふ……ただいま」
白いワンピースに水色のカーディガン。大学生になった姉は化粧をするようになって急に大人びた。
何となく目がとろんとしていて、顔が赤い。時間差で煙草の匂いが鼻についた。
「……くさい」
「え、お酒? 匂う?」
姉は、長袖の端をつかんで嗅ぐ仕草をする。
「違う。たばこ」
「私は喫ってないよ。他人のが移っただけ」
「酒は飲んでるだろ。どっちにしても臭いから、出てけよ」
「やだ。うーん……でも、分かった。臭いのは良くないね。オーケー」
意外と聞き分け良く出て行く背中を見送り、俺は歴史の教科書を開き直す。
こんな時間まで飲んでるなんて、大学生ってのは気楽なものだ。大学に受かったら自分もあぁなるのかな、と思い、そんな自分の姿は想像し辛かった。
30分ほど経っただろうか。今度はノック無しで、再び姉が俺の部屋に入ってきた。
なぜ、俺の部屋には鍵がついていないのだろう。
姉は風呂上り、チェックのパジャマ姿だった。ドライヤーで乾かしたのであろう髪がふわふわと膨らんでいる。
「ただいま」
「だから、人の部屋に勝手に入ってくんなよ」
「勉強中?」
俺の苦情を無視して姉は問う。
「見りゃ分かるだろ」
「こんな時間まで勉強してるの。偉いね。でも、無理しない方がいいよ」
「あぁ」
別に、夜型なだけで、それほど根を詰めているわけじゃない。……が、そんなことをいちいち説明するのも面倒くさい。
「ねぇ、ちょっと息抜きしない」
「出てけよ。酔っ払い」
「ふふ。酔ってないよ」
姉が近づいてきて、その手が俺の肩に触れる。
椅子に座ったままの俺の背中側から、姉の腕が絡みついてきた。
「ねぇ、お姉ちゃんと、エッチなことしよう」
「そういう冗談は嫌いだ」
「冗談じゃないよぅ」
姉の唇が俺の耳に触れた。俺は迷惑そうに頭を振り払う。
「サカってるなら適当な男つかまえてこいよ。飲み会に、男だっているだろ」
「うん。今日はコンパだったからね。でも、お姉ちゃんがどこの誰とも知らない馬の骨にお持ち帰りされちゃってもいいの?」
「俺に絡んでくるよりマシ。キンシンソーカンお断り」
「分かってる。でも、挿れなきゃ姦淫にはならないと思わない?」
直接的なエロ発言に軽く引く。冗談でも、女がそういう事を言わない方が良いと思う俺は古いのだろうか。
背中に、ノーブラの胸が押し付けられる。
「やめろって」
「溜まってるでしょ。青少年」
「溜まってんのはどっちだ。クソ姉貴」
「ぁん。もっと言って」
この姉に対しては、罵るのは逆効果だ。分かっているが、あまりにウザいので、つい、苛立って言葉が刺々しくなってしまう。
俺を抱きしめる腕の力が強くなり、背中に貼りついた姉の体温が、心臓の音が伝わってくる。
「触るな、死ね」
「んっ」
姉の身体が震える。
「死ねとか……。ぁ、は。酔ってるから、いつもより、ぁぁ。感じちゃう……」
やっぱり酔ってるんじゃねーか。いや、そんなのは一目瞭然だからどうでもいいのだが。感じるとか言うな。気持ち悪い。
ぐい、と姉の腕を取って投げるように乱暴に振り払った。
「ひゃん」
わざとらしい声を出して、姉はベッドに倒れ込む。
「やぁん。乱暴しちゃ、やだ」
姉は俺のベッドの上で身体をくねらせ、布団で顔を半分隠す仕草をした。悪戯っぽい瞳が上目使いでこちらを見つめている。
俺はため息をつき、姉を見返した。
「……乱暴して欲しい癖に」
「ぁっんぅ」
あぁ、しまった。
姉は身悶えしてベッドにつっぷした。わざと選んだ言葉ではないのに結果的に喜ばせてしまったようだ。
本当にどうしようもない。更に期待に満ちた瞳が輝き、こちらを見上げる。俺は大仰にため息をつき、あえて下手に出てみせた。
「あのさ、頼むから出てってくれないかな」
「ぶぅ。もっと物凄く、冷たく命令してくれたら出てってもいいよ」
つまり、姉はドMで、弟に欲情する変態だ。
俺は数秒考えて、口を開く。
「さっさと出てけ。気持ち悪いんだよ。発情期のメスブタが餌ねだってんじゃねぇよ、見苦しい。これ以上ふざけると股開いた状態で縛って路上に転がすぞ」
「――――――――――――――っうううっ!!」
ベッドに顔をおしつけ、ジタバタと喜ぶ姉。思い切り冗談で粉飾した台詞だが、これで良かったのか。とにかく今は満足して出てってくれるのを切に祈る。
「ぁ、はぁ……すごい……どうしよう……すごい、今の言葉で、濡れちゃった」
姉は足の間に手をやって息を荒げている。俺は、心の底からため息をつく。
「本当に……変態だよな」
「はい。お姉ちゃんは、どうしようもない変態です……っううっ。ぁ、っん」
違う。正直な感想を述べているだけで、決して喜ばせたいわけじゃないんだ。姉は、おもむろにパジャマのボタンを外し始める。色白のたっぷりとした肉塊が柔らかさを誇るように零れ落ちた。
桃色の乳首がぷっくりと盛り上がっているのに、つい、目を奪われる
「弟様、どうぞ、この変態のお姉ちゃんのおっぱいを揉んで頂けないでしょうか」
「は? なんで。やだよ」
「マッサージくらい、いいでしょ。肩もみと同じだよ」
「全然違うだろ」
「なんで? お姉ちゃん、最近おっぱいがこってしょうがないの。だってほら、お姉ちゃんのおっぱいって、結構大きいでしょ」
「じゃ、肩もむよ」
「肩揉んでくれるの?」
「いや、やっぱりヤだ」
良く考えたら、何故俺が姉の肩を揉まなければいけないんだ。
「お願い。お小遣い払うから。いくら? 1万でいい?」
姉はどこからかさっと一万円を取り出してひらりと振る。間違いなく事前に仕込んでやがった。
しかし、正直、今の俺に1万円は大金だ。高校生と大学生の大きな違いというのは、この財力の差じゃないだろうか。
金に釣られて、俺は仕方が無く姉の肩を揉むことにした。
「分かった」
「じゃ、お願いします」
そう言って姉は両手で大きくパジャマを開き、おっぱいをむき出しにして俺の方に向ける。
……いや、そっちのつもりじゃない。だが、こうなると一々ごねるのも面倒になる。まるで、臆した方が負けたみたいだ。
エロい気持ちさえ抱かなければ、胸も、肩もただの体の一部だ。俺は自分にそう言い聞かせる。
胸を揉むくらいが、なんだ。
俺は差し向かいに座り、おもむろに姉の両胸を鷲掴みにした。
「ひゃ、やだっ、ぁ、いきなり。痛いよ」
「あぁ、悪い」
「ううん……そういうのも、嫌いじゃない」
「あ、そ」
「物みたいにぞんざいに扱ってくれてもいいよ」
俺は姉の言葉を無視して、優しくおっぱいを揉み始めた。
むにゅ。
とりあえず円を描く様に。
ふにふに、ふにふに、ふにふに、ふにふに、ふにふに。
「あんっ、ふ、ぅ……んっ」
「変な声出すな」
「うっ……は、はい……申し訳ありません、ご主人様」
「誰がご主人様だ。あほか。」
ツッコミを入れるのも馬鹿らしいがなかなかスルーできない。
手に柔らかく吸いついて来るような肌のむっちりとした感触。餅をこねているだけだ、と己に言い聞かせながら更に手を動かす。
むにむに、ぐにぐに。
「あっん。やだ、弟君ってば、あっ……上手……っ」
むにむにむにむにむにむにむにむにむにむに……。
「ん、んんんんん―――――――……んっんん」
ギュっと固く目をつぶった姉が押し殺した声を漏らす。
「声、出てるって」
「ぁ……は、ひ、ごめんね。口、ガムテープで貼ろうか」
なぜ、そういう発想になるんだ。それ、やりたいだけだろ。
「いい」
「そう?」
俺は諦め、マッサージを再開した。姉のうめき声は聞かないようにすればいい。雑音だと思って聞き流そう。
「んっ、ぁ、うっ。いいよぉ……弟君におっぱい揉まれるの、凄い、感じちゃう」
たゆたたゆたゆ……。
「ふぁあぁん……どうしよう。こんなの、だめ……ぁんっ、だめ、なのに、あっ。弟君におっぱい……おっぱい揉まれてるよぉ……恥ずかしいっ」
もみもみもみもみもみもみもみもみ。
「っは、すごい。お姉ちゃんのおっぱい、どんどん淫乱になってく。先っぽ、尖っちゃうしっ、すごい、気持ちいい……ぁうっ」
ふにふにふにふに。
「は、ぁっ。イっちゃう。おっぱい揉まれてるだけで、お姉ちゃん、イっちゃう……っ」
………………………………。聞き流せるか!!
キれそうになって俺は思わず怒り任せに姉の両乳首を指で強くつねった。
「―――――――――――――うっっ!!!!」
途端、姉の身体が弓なりに反りかえる。
「っ、ぁああ、ひ、ぁっ……あ――――――っ」
姉は弾かれたようにベッドに倒れ込み、ビクビクと体を痙攣させている。やばい。
「姉ちゃん?」
しかし、返事はない。顔を赤く染めた姉が、口をパクパクさせている。視点がいまいち合っていない。
「ぁ……」
「大丈夫?」
「ひゃ……は、い……らいじょう、ぶ、れす」
呂律が回っていないぞ。
「はは……もしかして、イったとか? ……んなわけないよな。いくらなんでも、おっぱいだけでイくとか、エロ漫画じゃあるまいし」
「ぁ……うぅ。ごめんなさい……。おっぱいだけでイっちゃうお姉ちゃんは、変態です……はひ」
「もちろん、イった、演技だよな?」
すると、姉が俺の手を取って、パジャマのズボンの中に導こうとする。
「やめろ」
「いいから。ちょっとだけ触ってみて」
有無を言わせぬ力強さに引っ張られ、姉のパジャマのズボンの中、ショーツの下に手を差し込まされる。
くちゅ。
割れ目まで挿れずに表面に触れただけなのに、滴る程にドロドロになっているのが分かった。
「……嘘だろ」
俺は絶句し、次の瞬間我に返ってパッと手を引きぬいた。俺の指は粘ついた液を掬い取っている。室内灯に照らすと指の先がいやらしい液をまとって光った。
「弟君……」
姉は色香と憂いをたっぷり含んだ声で唇を震わせた。
「たったあれだけでイったのか」
「はい」
凄いな。うん。単純に、凄いと感心する。
「姉ちゃんってさ、いわゆる、あれ? 調教済みなわけ?」
姉の性経験がどれくらいなのか知る由もないし、知りたいとも思わなかったが、興味本位からこれは聞いてみたいと思った。
しかし、この言葉は姉の気に障ったらしい。
「そんなわけ、ないでしょ。酷いよ! 弟君」
「あ、あぁ、そうだよな。悪い」
「お姉ちゃんがこんなに感じるのは弟君にだけなんだからね! 弟君が触った時しか、お姉ちゃんこんな風にならないんだから!」
「は? そうなの?」
「当たり前でしょ!」
何が当たり前なんだろう。と思う俺を置き去りに姉は滔々とまくしたてる。
「お姉ちゃんは、これでもモテるんだよ。でも、今まで弟君以外の男の人に体を触らせたことなんて、一度も無いんだから。デートにだって誘われたりするし、告白だってされたことあるけど、全部、断ってるんだよ。お姉ちゃんの体に触っていいのは弟君だけ、お姉ちゃんの肩を揉んでいいのも、おっぱいを触っていいのも、唇に触れていいのも、あそこに突っ込んでいいのも、全部弟君だけなんだから。お姉ちゃんの体は、弟君だけのものなんだから!」
後半は聞かなかったことにして、俺は姉を宥める。
「分かった。分かったから、あんまり大きな声出すなよ」
「本当? ちゃんと、分かってくれた?」
「はいはい」
姉は涙目になっている。やっぱり、酔ってんな、と思ったが、泣く子と酔っ払いには勝てないとか言う。ならば泣く酔っ払いは更にタチが悪い。さわらぬ神に祟りなし。俺もその教訓に従って姉に逆らわない方を選択した。
「分かったから、今日はもう、自分の部屋に帰れよ。な? 俺、勉強中だし」
「……うん。そうだね。ごめん。やっぱり、ちょっと酔ってたみたい。ごめんね。迷惑かけて。忘れて」
姉は手のひらを己の額に押し当て、目を閉じる。
「あぁ……でも、最後に、一個だけお願いできないかな」
「何」
「……キスして」
俺は、ため息をつく。
もしかして、からかわれているのだろうか。いや、それならばまだいい。こうした長年の積み重ねが、姉の本気度を確固として俺に伝えつつある。
大丈夫。エロい気持ちさえ抱かなければ、唇だってただの皮膚だ。唇に唇を重ねたって、皮膚と皮膚が接触しただけに過ぎない。
なるべく考え過ぎないようにし、俺は姉の両肩をつかみ、唇を重ねた。
「んっ……」
パッと体を離す。
「……これでいいだろ。おやすみ」
体温も感じないくらいの一瞬だったが、俺の口に、柔らかい感触の記憶だけはハッキリと残った。
呆けたような表情で姉は立ち尽くしている。
「姉ちゃん?」
「は、い」
姉の顔は最初に入室してきた時より赤い。酔いも醒めてきたころだろうに、耳まで真っ赤だ。
「大丈夫?」
「うん……おやすみ」
ふらふらとした足取りで、姉は部屋を出て行く。扉を半分閉めて、上半身だけでこちらを覗きこんだ。いまだにパジャマのボタンは開いていて、ノーブラのおっぱいが片方、ぽろりとこぼれている。
「弟君……」
「おっぱい、出てるよ」
「好き」
「……あっそ」
俺が冷たく返すと、姉は嬉しそうに目を細めて笑い、扉を閉めた。
幸いなことに、今夜も姉と俺の間に過ちは起きなかった。大変結構なことだ。
一人になった部屋。ただ、壁一枚隔てて姉がいる。この事実は如何ともし難い。
もう一度だけため息を落とし、俺は机の上の参考書を閉じた。
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