2014年12月号

地方創生 2つの輪

「神山ラボ」で進む実験 過疎地を舞台に「働き方」を変革

角川 素久(Sansan取締役CWO)

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既成概念にとらわれることなく、働き方の革新に挑むITベンチャー・Sansan。徳島県神山町にある古民家にサテライトオフィスを開設。新しいワークスタイルに挑戦し、生産性の向上を実現している。

徳島県神山町の古民家を改装してつくられたSansanのサテライトオフィス。目的は生産性の向上にあり、大自然に囲まれながら、責任をもって仕事に取り組むことが求められる

地方への移住や二拠点居住、リモートオフィスの活用など、新しい働き方を模索する動きが、さまざまなところで始まっている。しかし、抜本的な働き方の変革にまで踏み出した企業は、まだ多くはない。そうした中、挑戦的な試みで注目を集めているのが、Sansanだ。

目的は、あくまで生産性向上

Sansanは、世界初の法人向けクラウド名刺管理サービス『Sansan』を手がけ、現在、2000社を超える企業が導入しており、個人向けアプリ『Eight』は50万人以上のユーザーを持つ。東京都渋谷区に本社を構えるSansanが、徳島県神山町の静かな山里にサテライトオフィス(通称:Sansan神山ラボ)を構えたのは今から4年前のことだ。

「もともと、社内には最適なオフィス環境づくりにチャレンジしようという気運がありました。社長の寺田(親弘)から神山ラボの話が出たときも、『ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する』という当社のミッションとも直結する取り組みなので、特別、驚きはしませんでした」と振り返るのは、Sansanの取締役CWO(チーフ・ワークスタイル・オフィサー)角川素久氏だ。

角川 素久 Sansan 取締役CWO

このCWOという役職自体、まさに経営レベルで働き方を革新するミッションを達成するために設けた、Sansan独自の役職である。

「まずはエンジニアが約1ヵ月間、神山ラボに滞在した結果、東京と違って通勤によるストレスもなく、心身の働きや創造性などが活発化する転地効果を実感し、生産性が高まることを確認しました。生産性向上の効果に個人差があるのは確かですが、営業、マーケティング、人事、広報などの担当が滞在しても、同様に成果が上がることがわかっています」

現在では、エンジニアが常駐勤務しているほか、部署ごとに合宿したり、新人社員研修を行ったりと用途を広げている。合宿として活用する際には、一体感が生まれてチーム力がアップ、社員同士の信頼関係が構築されるという効果も得られた。

Sansanは、東京でも創造的な環境づくりを実践。

神山で実験し、東京に導入

神山ラボの周りには、魚が群れる川が流れ、遊びの誘惑がいっぱいあるように見える。本社と違い、上司の目もなく、働き方も時間の使い方も社員の裁量に任されている。となると、つい仕事をサボってしまわないのか。

「神山ラボはあくまでも仕事の成果を上げるための拠点で、福利厚生のためでもワークライフバランスのためでもありません。成果達成の責任を持って、自己管理の下、仕事をやり遂げることが求められます」

角川CWOは、労務管理や進捗管理を含めて神山ラボがうまく機能している要因として、その意義が社内に浸透し、成果に対する評価制度がきちんと確立しているからだと説く。

「社長の寺田が事あるごとに前述のミッションや、結果達成のための姿勢を重要視していることを語っています。今では、こうした新しい働き方にチャレンジすることが我々のアイデンティティになってきています」

実際、神山ラボから新たな取り組みが続々と生まれている。その一つが、オンライン営業だ。営業部署が神山ラボに数ヵ月間こもってTV電話営業を実践したところ、訪問営業に比べて倍以上に生産性が向上。その成功例をもとに、案件規模や業種を考慮しながら東京本社でも行っている。

また、リモートワークという多様な働き方を踏まえて新たに本社で導入したのが、「イエーイ」という在宅勤務制度だ。平日の出勤日を土日に振り返ることができる「どにーちょ」という制度もとり入れられた。

ハンモックを導入するなど、東京オフィスの設計にも神山での経験が活かされている

あえて地域への貢献は意識せず

既成概念にとらわれない働き方を象徴する神山ラボだが、それは徳島県神山町に受け入れる土壌があったからこそ、実現した取り組みでもある。

「自治体にありがちな箱モノをつくって助成金を支給するような支援ではなく、地域に魅力的なリーダーがいて、人が人を呼ぶような共感できる活動がベースにあるから実現しているのだと思います」

ITインフラの整備などは表面的なものに過ぎない。長年にわたり培われた文化が、企業を呼び寄せるのである。

Sansanでは、特に地域への貢献を意識しているわけではない。しかし高齢化が進む地域の住民にとっては、日常の中に若者が働く光景があるだけでも、町の活気につながる。

また、Sansanの社員は、神山町の小中学校で出前授業を行っている。「イノベーション」をテーマにした授業などを展開し、地域の児童・生徒に新たな体験を提供している。

神山ラボを起点に、ワークスタイルの改革や新たな出会いが、かつてない価値を生み始めたSansan。国が進める地方創生においても、東京一極集中の是正が目指されている。Sansanが実践するような試みが積み重なることで、地方にオフィスを持つことの価値、地方で働くことの意味も変わっていくことになる。

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