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ありのままでと娘の決断−87歳認知症の母、徘徊の自由で戻った笑顔

Bloomberg 11月4日(火)7時56分配信

「認知症は言うことを聞かない子供が一人増えたようなもの」と章子さんは笑う。「病気がどんなものか分かるまでが一番大変。進行するとまた行動パターンが変わる」と6年の同居経験を語る。「介護者は自由という犠牲もあるけど、メリットもたくさんある」とも話す。新しい生活から思いがけなく得たものは、近所の人たち、レストランの店主、警察官らの新しい友人だった。

アサヨさんの介護で、独身の章子さんの生活は180度変わり、母を中心に回る。午前8時に母親を起こし、デイサービスに送り出す。その間、仕事、掃除、買い物を済ませ、アサヨさんが帰宅すると晩御飯を作り、母親のとめどない話や徘徊に付き合う。

成長

同居前の章子さんは「独身を謳歌(おうか)して、好きなことをして、時間もむちゃくちゃ」な生活だったという。母親を介護していると自分のやりたいことをあきらめ始め、自分のための欲望もなくなった。「母が私の生活に入ってきたことで、言いたくないけど成長させてもらった。接点がなかった人たちと仲良くなって、親切にしてもらった。こんなにいい人たちがたくさんいると気づいた」と話す。

アサヨさんは時々、着替えを拒んだり、服を逆さまに着たり、下着に粗相をしたり、キャンディーを食べ過ぎたり、歯を磨いたと嘘をついたりする。章子さんはほとんどアサヨさんがやりたいようにさせている。

「先の人生がある子供でなく、残りの命は短い。そうなら清潔にすることに努めて、あとは楽しく暮らしたらいい。向こうのリズムでやって完璧にしようとしない」のが秘訣という。「ママは過去は忘れて先も心配しない、今を生きている。喧嘩(けんか)しても次の日全部忘れて可愛いらしいママになるから、私がどれだけ腹が立っても忘れることにした。だって引きずっているほうが損だから」。章子さんがたどり着いた結論だ。

母と娘の物語

日本政府は認知症患者に優しく、普通に暮らしができるような社会を目指している。2012年に認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)を発表し、認知症が長く地域で暮らしていけるようなアプローチを取り入れた。

14年度政府予算では同計画に32億円が計上された。西欧諸国が発表した認知症対策への投資額と比べるとまだ少ない。人道的でよりコストのかからないなケアを推進するという概念を掲げた日本政府の政策がどこに行き着くのか、今後どれだけの道のりがあるか。アサヨさんの物語から垣間見える。

記事についての記者への問い合わせ先:東京 Kanoko Matsuyama ,kmatsuyama2@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 ;Rick Schine 谷合謙三 ,yokubo1@bloomberg.net,eschine@bloomberg.net

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最終更新:11月4日(火)11時55分

Bloomberg

 

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