ここから本文です

ありのままでと娘の決断−87歳認知症の母、徘徊の自由で戻った笑顔

Bloomberg 11月4日(火)7時56分配信

英国と違い、日本では意思決定能力を失った人や、介護者を保護する法律がないため、損害賠償請求をされることもある。91歳の認知症男性が列車にはねられ鉄道会社に発生した損害について名古屋高裁は4月、妻に賠償を命じる判決を下し、「認知症の人と家族の会」に失望を与えた。アサヨさんの場合、幸運なことに外で大きなけがには至っていない。転んで顔を切り、青あざを作った程度で済んでいる。

アサヨ劇場

アサヨさんは新たな人生を楽しんでいるように見える。徘徊をしていないときは、レストランやバーで家族や親戚の話、一緒に働いていた医師や看護師の話、娘の恋愛話をあれこれして楽しませている。時には女性にはボーイフレンドや夫の話を聞きたがる。実話であれ作り話であれ、聴き手は大笑いし、口が達者な母の話は一段と弾むと章子さんは言った。

「人に注目されているとうれしくて、無視されるとすねて帰ろう、帰ろうという。外に出ると、女優アサヨ劇場、その場に任せて嘘八百を言う。こんな面白くて可愛い母を見たことがなかった、知らずにいたかと思うと恐ろしい」と章子さん。

今夏のある日、デイサービスから帰宅後、章子さんがケアマネジャーに相談をしている間に、アサヨさんは世話になりたくないから出ていくと言い出した。部屋を歩き回り、2階のギャラリーへの階段を上り下りし、死んだ愛猫ジェフの名前を呼びながら、山の方に住む友人のところへ行く、腕に自信があって仕事が得られるから心配無用、出してくれと叫び始めた。

午後6時40分ごろに章子さんが玄関の扉を開けると、湿気と熱気が残る街に飛び出した。ワイシャツ姿のサラリーマンが仕事帰りの一杯のため並ぶ飲み屋街を歩きながら、アサヨさんは娘を泥棒と呼び、どっかに行けと叫んだ。見知らぬ人の腕を平手打ちし、乗用車やトラックで混雑する道路の信号を無視して横切り、どんどん歩いて行った。

ボーイフレンド

40分ほど徘徊したあと、アサヨさんはレストランに入って休むことに同意。シロップを入れたアイスコーヒーをストローで飲み干し、マルゲリータピザのトッピングだけを箸でつまんで食べた。外に立っていたウエーター2人を娘のボーイフレンドだと指差した。章子さんと帰宅したの午後8時ごろだった。

8ページ中7ページ目を表示

最終更新:11月4日(火)11時55分

Bloomberg

 

PR