ありのままでと娘の決断−87歳認知症の母、徘徊の自由で戻った笑顔
Bloomberg 11月4日(火)7時56分配信
薬の副作用
現在は高血圧、高脂血症など数種類の治療薬を服用している。アルツハイマー病の進行を遅らせるため頻繁に処方されるアリセプトは服用していない。米ミネソタ州のメイヨークリニックによると、アリセプトは20%の患者に嘔吐(おうと)や下痢などの副作用を起こすという。副作用がアサヨさんの興奮や暴力を引き起していた可能性もあるとイリフ教授は指摘する。「認知症患者は自分の体が体験していることを理解できず、表現できない。章子さんの選択は正しくとても大胆だ」と述べた。
だからといって毎日の散歩が容易になったわけではない。一番ひどいとき、アサヨさんは12時間続けて家を出たり入ったりし、近所の高級イタリア料理店に入って娘を泥棒と呼び、警察を呼んでくれと叫んだ。章子さんは、真っ青になり暴れる153センチ、45キロの母をレストランの警備員と一緒に引きずりだした。
思い出の場所
アサヨさんは、マンションから5キロほど西の春日出という地区に向かおうとする。独身時代に住み込みで看護師として働いた思い出の場所だ。北九州の門司にも行こうとする。
アサヨさんは1927年、門司で4人の末っ子として生まれ、大阪に出て看護師の資格を取った後、春日出にある親戚のクリニックで働き、負傷した兵士や、梅毒に感染した女性を手当てした。タクシーを拾ってこうした場所に行こうとするが、現金がないので最終的に警察に連れて行かれる。最高5000円の乗車料金を払ったと章子さんは言った。
家族が介護に奮闘する中、民間企業でも顧客に手を差し伸べ、独自の支え方を育んでいる。総合小売りのイオンやゆうちょ銀行では、販売員やフロア係が認知症患者の行動の特徴を学んでいる。全国キャラバン・メイト連絡協議会の運営事務局によると、全国では、小売りや銀行などの民間企業含めて約540万人を超える人たちが認知症講座を受けた。
「地域にいる認知症患者は生活者」と話すのは、同協議会でサポーター講座を運営する菅原氏。「年金を下ろしに郵便局や銀行に行くし、食料品を買うのにスーパーに行く。スーパー、理髪店、八百屋、魚屋、コンビニ、マンション管理など地域全体を巻き込んで啓発をして見守りを展開しないといけない」と話す。
最終更新:11月4日(火)11時55分
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