ありのままでと娘の決断−87歳認知症の母、徘徊の自由で戻った笑顔
Bloomberg 11月4日(火)7時56分配信
気持ちの良い距離
近所の人や飲食店で働く人たちが母親を受け入れ、深入りせず、気持ちの良い距離から見守ってくれていると、章子さんは言う。徘徊(はいかい)していても親切に道を教えてくれたり、警察まで連れて行ってくれたりする。近くには午前6時から午前3時までの時間帯に営業しているレストランやカフェがたくさんある。
自宅から3キロ圏の交番や警察署にはたいてい世話になっていると章子さん。申し訳ない気持ちでいたところ、ある警察官にお母さんのことは「任せておけ、安心しろ」と言われ、それが一つの転機だったかもしれないという。それからは何かあれば交番に行くようアサヨさんに口を酸っぱくして言った。警察が見守り探す。アサヨさんが交番を目指すようになると、章子さんも安心し1人で徘徊もさせた。
米国アルツハイマー協会によると、認知症患者の10人に6人は名前や住所を忘れ、自分がどこにいるか分からなくなる。英国ロンドン大学のユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのスティーブ・イリフ教授(高齢者プライマリーケア専門)は、監視のない徘徊は危険だが、興奮する患者を散歩によって落ち着かせることができると言い、「歩くことは健康に良く、不安行動を和らげ、睡眠を手助けする」と話す。
賛否両論
単独での徘徊には賛否両論ある。多くの医師は患者が1人で出歩きけがをするリスクを嫌がるが、ソーシャルワーカーは患者がやりたいことを安全にできるようにする努力をするべきだという意見を持つ。
「認知症が進行し自己意思決定する能力を失うと、周りが本人の利益を考えて行動してあげなければいけない。そこで最優先されることは、老人ホームのドアを施錠して閉じ込めてしまうことかもしれないし、必ずしもそうではないかもしれない」とイリフ教授。「自分の家が思い出せない、分からない人に対し、どこまでのリスクを許容できるかを判断することだ」とイリフ教授は話す。
章子さんにはもう一つ取ったリスクがある。アサヨさんが服用していた数え切れないほどの薬をやめたのだ。アルツハイマー病や糖尿病、高血圧、高脂血症、血栓などの薬だ。漢方薬もあった。驚いたことに、薬をやめるとアサヨさんが穏やかになった。「記憶はなくなるかもしれないけれど、それよりも母の興奮が収まった方が、私たちの生活はより楽になった」と章子さん。
最終更新:11月4日(火)11時55分
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