ありのままでと娘の決断−87歳認知症の母、徘徊の自由で戻った笑顔
Bloomberg 11月4日(火)7時56分配信
アサヨさんは、隣近所のインターホンを鳴らして「夫がいない」「子供がいない」と言い、マヨネーズやバナナを台所にため込んだ。家の中を段ボール箱で散らかし、印鑑を持たずに銀行に行って現金を下ろせないとかんしゃくを起こして行員の前で通帳を破った。「通帳を無くした」「現金がない」と章子さんに何度も電話があり、後から調べると家中の引き出しから札束が出てきた。
大嘘
「本人が大丈夫と言うから信じていたけど、それが大嘘(うそ)だった」と章子さん。近隣の苦情が増え章子さんは引き取る決意をした。30年以上住んだ自宅から越すことを嫌がったので「遊びに行こう」と大阪のマンションに連れてきた。アサヨさんの安全を考えて家に閉じ込めた。デイケアにも通所したが、夕から朝にかけ二人きりで過ごす時間は長かった。
認知症疾病啓発プログラムを運営する全国キャラバン・メイト連絡協議会の菅原弘子事務局長は、「認知症患者にどう対応すればいいかみんな困っていて、解決方法を知りたがっている。以前から現場では問題が起きていて切羽詰まっていたが、対応が分からなかった」と言う。
日本の高齢化は急速で、国民の6%に当たる推計800万人が認知症を患っているか、発症リスクを負っている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、65歳以上の人口は現在4人に1人だが、2060年には4割になる。出生率が低く移民受け入れの合意もない中、納税人口は減り、高齢者を財政的、物理的に支えるのが難しくなっていく。
予想外
玄関のドアを解放した日。アサヨさんは外に飛び出し、6キロも7キロも休むことなく歩いた。章子さんは距離を置いて後から様子を見ながらついて行った。この日を境に全く予想していなかったことが起こった。自由をつかみ取ったアサヨさんの怒りが静まったのだ。笑顔を見せるようになり、世間話や若いころの話をして、娘の友達や知り合いだけでなく、知らない人も楽しませ始めた。
最終更新:11月4日(火)11時55分
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