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 木枯らしの声を聞けば鍋が恋しい。文化庁長官だった故・河合隼雄さんに「鍋料理感覚」という短いエッセーがある。家族や仲間と鍋を囲むことで「全体の調和をこころがける感覚」が身につく――そんな思いをつづっている▼たしかに、各自が好き勝手をやりだせば鍋にならない。手順もそうだが、たとえばすき焼きなどは、人をさしおいて肉ばかり狙えばひんしゅくを買う。傍若無人な「鍋荒らし」には、鍋奉行の一喝が望ましい▼さて、こちらは、よその家の鍋に箸を突っ込むような無法ぶりだ。小笠原、伊豆諸島近海に集まる中国の密漁船は宝石サンゴが狙いという。貴重な資源を根こそぎ取っているとされ、やり放題が目に余る▼中国漁船は近年、近隣の海を脅かす行為が目立つ。尖閣沖で海保の巡視船に体当たりしたのは記憶に新しい。韓国沖では集団不法操業を繰り返して、韓国当局に死傷者を出している。南シナ海ではベトナム漁船を沈めたと報じられた▼国際的な「鍋料理感覚」をまるで欠く。中国政府は海洋進出への野心が透けて見え、漁船団はその先駆(さきが)け役のようにも思われる。今回の密漁も、単なる一獲千金狙いなのか、背後に何かあるのか、判然としない不気味さがつきまとう▼昨今は鍋奉行のほかに、灰汁(あく)をすくう「灰汁(悪)代官」なる役回りもあると聞く。中国当局は「人治」の目こぼしを封じ、「法治」の徹底で密漁を止めるべきだ。「人のものは俺のもの」が横行しては、信と品はいっそう揺らぐ。