初めてのドイツ人CA訓練をしていたときのことです。日本の航空会社で乗務するのですから、まずは、日本式の挨拶(お辞儀)を教えることにしました。手は、前で軽く組み、姿勢よく立ち、語先後礼でお辞儀をする。これが筆者が在籍していた航空会社の基本的なお辞儀の仕方でした。
イギリス人CAたちは、「日本では、こんなやり方で挨拶するんだ」くらいに受け取って
くれたのか、素直に従ってくれました。ところが、ドイツ人CAたちは、このお辞儀はできないと言うのです。そして、頑としてやろうとしませんでした。とにかくこんな挨拶の仕方はおかしいと訴えてきます。ドイツ人CAの担任教官は、困ってしまいました。
ヨーロッパ人は、歴史的に、封建制と闘ってきました。そこで革命も起こしてきました。封建制のなごりの一つに、ひれ伏す姿があります。多くのヨーロッパ人は、ひれ伏すことに抵抗を感じてきました。なぜなら、封建制のイメージがあるからです。そして、日本のお辞儀もひれ伏す形に似ています。
もう一つ抵抗する理由がありました。お辞儀をするときの手の位置でした。彼女たちにとって、それは、陰部を隠すしぐさと映りました。これは、ぜったいできないと言うのです。その昔、アダムとイブは、お互い裸のまま陰部を手で覆っていました。現在では、そのしぐさは、ストリッパーが行なうしぐさで、まともな女性たちは、ぜったいにしないというものでした。
彼女たちと、何度も話し合いを持ち、手を組むのは、手出しをしないことを意味していることや、頭を差し出すことによって、相手に敬意や信頼を表すことを理解してもらったのを覚えています。
このことから分かるように、国際社会では、身体の前で、手を組むしぐさは避けるほうがよいでしょう。壇上で、スピーチをするときも、マイクの前で、日本人は手を組んでしまいます。欧米人にとっては違和感のあるしぐさとなります。これをしてしまうと、聴衆の目は、そちらに行ってしまいます。
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