第5回 ほどよいゴールさえあれば。

糸井 宮本さんが思いつくことって、
コンピュータの知識がない人でも
思いつけるようなことが多いんですか?
宮本 と思いますよ。
糸井 ちなみに宮本さんって、
過去にコンピュータの勉強を
専門的にしていたことがあるんですか。
宮本 いえ、してないです。
糸井 あ、そうなんだ。
岩田 宮本さんは、コンピュータやプログラムについて
体系的には学んでいないはずなんですけど、
コンピュータが非常にシンプルだった時代から
いろんなことを経験してきていて、
自分のやりたいことを実現させるために、
道具であるコンピュータのことは
ちゃんと理解しているんですよ。
糸井 つまり、コンピュータというのは
こういうことができるはずだ、
っていう根本的な知識が背景にあるから、
乱暴に見える思いつきも、
現実的に提案できるというか。
宮本 そうですね。
あの、コンピュータをまったく知らない人って
やっぱり、無謀なことを提案してしまうので、
どうやってつくればいいのかが
本人にもまわりにもわからないんですよ。
だからぼくは、思いついたことを、
「こういうふうにしたらできませんかね?」
っていうのとセットで持っていくんです。
そういうことが、ぼくの仕事ですね。
岩田 宮本さんは、
そういう仕組みを考えるのが好きですから。
糸井 それはしかし、微妙というか、
紙一重の部分があるんでしょうねぇ。
いいアイディアと無謀な考えは。
宮本 そうですねぇ。
たとえば、東京と京都は
3時間で行けるのが当たり前だというときに、
「なんかアイディアがあれば
 2時間で行けるんじゃないのか?」
っていうことを思いつきたいんであって、
「東京でドアを開けたら京都にいたいんですよ」
みたいな話にはしないっていうか。
糸井 ああ、そのふたつはぜんぜん違う。うん。
宮本 そう。別の解き方として、
「ドアを開けたら京都にいた、
 と思わせるだけでもいいから、手はないかな?」
というのもありですけどね(笑)。
糸井 はいはいはい。
宮本 ふつうに仕様を出すと「それは無理です」って
言われるようなことも、原因を探っていくと、
できるような形が見えてきたりします。
たとえば、ピクミンの仕様を出すとき、
「ピクミンはいろんなものを自分で考えて巣に運ぶ」
というと、中間に入ってるディレクターは
「それはたいへんです、そんな簡単にはできないです」
って答えたりするんですけど、
「網の目のようにルートを引いておいて、
 最短のルートを検索できる?」って訊くと、
プログラマーは意外と
「あ、それならできます」
って言うようなことがあるんですよ。
糸井 ああーーー。
宮本 そういうふうに、
「一見、できそうもないアイディア」
を形にしていくというのが、
ぼくがそのチームにいる、
いちばん大きな意義じゃないかな。
糸井 それはあれですね、
優れた絵描きが、ふつうはとても描けないような
シーンに出会ったときに
「これなら描けるかな」って思えるようなことですね。
たとえば、北斎の波の絵はさ、北斎自身は
「これはこうすれば描けるだろうな」
って思ったわけでしょ。
宮本 うん、そうですね。
糸井 それはやっぱり、北斎が「絵」というものを
知っているからわかるんでしょうね。
だから、宮本さんも、コンピュータやプログラムを
全体としてつかんでいる、というか。
宮本 なんでですかね。と言っても、
プログラマーがすべてつくってくれるわけで、
その人しだいなんですけどね。
岩田 宮本さんは、
コンピュータでどうプログラムを書くかといった
細かいことはあまりご存知ないと思うんですけど、
コンピュータはどういうことは得意で、
どういうことが苦手だっていう理解は
非常に的確なんですよ。
糸井 ああ、なるほど。
岩田 だから、たとえば、
「できない」って言うプログラマーがいたときに、
「なんとかしなさい」って言うんじゃなく、
「どういう仕組みになってるの?」って訊くんですね。
すると、仕組みを説明されるので、
「じゃあその仕組みをこう利用したら
 こういうことはできないの?」って提案すると、
「それならできます」ってなるんです。
宮本 そういうことを繰り返してますね。
糸井 で、それ全体が経験になって、つぎの機会に
「これならできるんじゃない?」
っていうふうに活きていく。
岩田 はい。
糸井 なるほどー。
岩田 『ピクミン』というゲームが
まさにそうなんですけど、
一個一個の動きや仕組みはシンプルなんです。
ところが、それら全体が破綻なく動く、
となると、すごく難しくなる。
コンピュータも、一度には単純なことしかできませんが、
それらの単純なことを組み合わせて
複雑な処理をするように仕上げるのが、
プログラムのおもしろさであり、難しさなんです。
宮本さんは、ゲーム全体を動かすための
プログラムの設計をしているわけではないんですけど、
一個一個のシンプルな仕組みについては、
だいたいどういうことなのか
そうとう正確にわかっていると思います。
糸井 はーー。
岩田 なんていうか、やっぱり、
原理と機能をわかって
しゃべってる人なんですね、宮本さんは。
だから、プログラマーとやり取りできるんですよ。
自分がやりたいことを実現するために、
「できない」と思い込んでいるプログラマーのかわりに
どうすればできるかを提案できるんです。
そういうゲームデザイナーって
それほど多くはないんじゃないでしょうかね。
糸井 それは、やっぱり、やりたいことが先にあるから、
必然的にそうなるんでしょうね。
実現させたい、という気持ちの強さが道を拓くというか。
宮本 そうですね。
「こうしたい!」っていうゴールさえあれば、
誰がどこでなにをする、というのを積み上げて、
いちばん単純な構造がつくれますから。
糸井 うん、うん。
宮本 だから、なんというか、
ゴールを決めれば、
だましだましでもそこへ行く方法はあるんですよ。
糸井 無謀なゴールでもなく、
できる範囲におさえたゴールでもなく。
宮本 そうです。
そういう、ほどよいゴールを決めて、
どうしたらできるのかということを考えさせると、
ぼくはたぶん、早いと思います。
糸井 「早い」んですね。そうかー。
(続きます)
2013-07-19-FRI