最強将棋ソフトの称号「電王」をかけてコンピュータ将棋ソフト同士が戦う『第2回 将棋電王トーナメント』が11月1~3日に行われ、来春行われる『将棋電王戦FINAL』にて人間代表であるプロ棋士5人と対決する5つのソフトが決定した。
⇒【前編】「11月1日/予選リーグ」
◆11月2日/決勝トーナメント初日
激指と習甦の対局はタイトル戦でも指されたことがある局面になったが、村山慈明七段の想定を超える展開に:日本将棋連盟モバイル(http://www.shogi.or.jp/mobile/)より
『第2回 将棋電王トーナメント』決勝初日はトーナメント形式で、予選の上位4チームはシードになり2回戦からの登場となる。そして、やねうら王がシードで、1回戦で激指と習甦が激突してしまうDブロックに大きな注目が集まった。3ソフトとも超有名ソフトなので、ここから1つしか上がれないのは非常にもったいない感があるのだが、仕方ないところか。
結果的に、このDブロックからは、やねうら王しか勝ち上がれなかったことになる。ほかのブロックでは、AブロックとBブロックでシード枠だったPonanzaとSeleneは順当に勝ち上がり。Cブロックは今年のコンピュータ将棋選手権で優勝したAperyがシードだったが、AWAKEに敗れてしまう。これでPonanza、Selene、AWAKE、やねうら王は『電王戦FINAL』への出場が決定。Aperyと習甦は残りの1枠をかけて、翌日に直接対決となった。
◆11月3日/決勝トーナメント最終日
最終日はトーナメント準決勝、決勝、3位決定戦、5位決定戦が平行して行われる形に。ここまで残ったソフトたちは、例外なくどれも強く、その将棋の内容も難解を極める。プロ棋士ですら手の意味を即座に解説することが難しい局面を、記者の棋力で把握することは不可能というもの。雲の上の戦いという趣である。
習甦とN4Sに勝って5位にすべりこんだAperyは、ここ最近の実績を見れば順当と言えるだろうか。それにしても習甦が連続出場を逃したことと、激指が最終日にも残れなかったことは衝撃的だ。特に習甦は今年、菅井竜也五段に2回も勝っているのだから。
⇒無謀なまでの完徹23時間!「将棋電王戦リベンジマッチ」観戦記
http://nikkan-spa.jp/683433
菅井竜也五段の通算勝率は0.7337と7割を超えている(2014年11月5日対局分まで)。通算勝率が7割を超えているプロ棋士は、菅井五段のほかだと、みなさんご存知の羽生善治名人(四冠)、電王戦でYSSに勝った豊島将之七段、『将棋電王戦FINAL』に出場予定の永瀬拓矢六段、そして千田翔太四段の合わせて5人しかいない。
羽生名人以外は若手なので対局数が少なく、これのみをもって強さを判断することは早計ではあるが、勝率7割というのはそれだけ安定した強さを持っているという指標にはなる。そしてその菅井五段は練習対局で当時の習甦に5割ほどの勝率で、本番では2連敗だった。そして決勝に残った5ソフトは、ネット対局場「floodgate」の成績などを含めて考えても、おそらくは習甦より強い。
やねうら王とAWAKEの対局では、AWAKEが「mate63」すなわち、どうやっても63手以内に勝つという表示が出た。恐ろしい死刑宣告だ:日本将棋連盟モバイル(http://www.shogi.or.jp/mobile/)より
さらにコンピュータ将棋は、ドラゴンボールのフリーザよろしく、確実にあと1回は変身を残している。コンピュータ将棋界では、ここ最近floodgateでAWAKEやPonanzaとトップを競っているNineDayFeverが導入した機械学習の手法(一般化して「次元下げ」などと呼ばれる」)が評価関数の正確さを上げるのに非常に有効だと取り沙汰されており、ほかのソフトも少しずつこれを参考にした実装を行っている。
今回、強豪と呼ばれるソフトが苦戦したのは、Stockfishだけでなく、この次元下げが影響したと予想される部分も大きい。Bonanza登場以来のブレイクスルー到来かもしれないとさえ言う開発者もいる。次回以降のコンピュータ将棋選手権や将棋電王トーナメントでは、BonanzaベースでStockfishを組みこみ、次元下げを活用した新しいソフトが続々と登場し、これまでの上位陣が一掃されてしまう可能性すらある。
さて決勝のAWAKEとPonanzaの対局は、そんなわれわれ人間の思惑とは関係なく、想定外の内容だった。終盤まで後手のPonanzaが圧倒的に攻め、先手のAWAKEが受け続けるという展開。どちらのソフトも後手が有利と評価していたにも関わらず、終盤のたった一手で一気に大逆転。最近のコンピュータ将棋は終盤の逆転が極めて少なくなっていたが、どちらもミスをしない、超強豪同士なのにこんなことがあるのかという大逆転劇だった。
今回のトーナメントには、過去の電王戦に登場したGPS将棋、ツツカナ、YSS、Puella α(ボンクラーズ)、そしてコンピュータ将棋選手権やfloodgateにしか登場していないNineDayFeverやBonanzaといった名のあるソフトが出場していない。したがってPonanzaが圧倒的な一強という状態なら、まだ『電王戦FINAL』に期待が持てるのだが、実際はそうではなかった。とにかく全体のレベルがひと回り底上げされているという認識を強くした『第2回 将棋電王トーナメント』だった。
「本当にみんな強くなりすぎですよ。電王戦に出られる棋士にはがんばってほしいとしか言いようがないんですが……」(遠山雄亮五段)
今月26日には、このAWAKEやPonanza、やねうら王、Selene、Aperyと対決するプロ棋士がそれぞれ誰になるのか、記者発表会で確定する。これまでの電王戦関連の取材ではつとめてポジティブにプロ棋士のがんばりに期待していた記者としては、応援はしたいのだが、正直なところ、すでにどう考えても絶望的な状況と言わざるをえない。そんな記者の予想が外れてくれればいいのだが……。 <取材・文・撮影/坂本寛>
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やねうら王は習甦に圧勝かと思われたが、習甦の粘りで動作に怪しいところが生じて大騒ぎに
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Seleneと開発者の西海枝昌彦氏。もともと強いソフトだが電王戦への参加は今回が初となる
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AWAKEと開発者の巨瀬亮一氏。元奨励会員ということで本人の棋力は開発者内でも最強だろう
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Ponanzaの攻めを受けきり、AWAKEの評価値グラフは一気に反転
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Ponanzaは5月のコンピュータ将棋選手権と同じく、最後の最後に大逆転を喫してしまった
◆第2回 将棋電王トーナメント | ニコニコ動画
http://ex.nicovideo.jp/denou/tournament2014/
◆将棋電王戦FINAL記者発表会 2014/11/26 14:00開始 – ニコニコ生放送
http://live.nicovideo.jp/watch/lv198374968