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【社説】

保育所の新設 子どもの声は騒音か

 待機児童解消のため保育所の新設が進む中で、子どもの声を騒音とした近隣トラブルが増えている。地域との共生を丁寧に探るのはもちろんのこと、子どもの声を包み込むような町をつくりたい。

 東京都国分寺市で十月上旬、認可保育所近くの路上で、園児を迎えにきた親に手おのを見せた男が逮捕された。園児の声がうるさいと日ごろから市に苦情を寄せ、「対応しないと園児の首を切る」と職員を脅していた。

 子どもの声をめぐっては以前から、保育所や公園などでトラブルは起きている。待機児童対策が急がれる今は、さらに深刻だ。保育所に適した土地が少ない都市部では住宅地域での建設も余儀なくされ、計画が浮上した途端に苦情が寄せられるケースが少なくない。

 都の調べでは、都内六十二区市町村のうち、六自治体が公立保育所で防音壁を新設したり、遊具の置き場を変え、十五自治体が園庭で遊ぶ時間を短くした。

 住民の反対で保育所の開園が延期になったり、中止に追い込まれた例もある。さいたま市の民間保育所は来年四月の開園を目指していたが、地元の説明会で理解を得られずに建設をあきらめた。

 裁判になったケースもある。東京都練馬区の保育所は住民から騒音差し止めの訴訟を起こされた。

 根拠とされたのは、騒音防止を目的とした全国でも珍しい都条例だ。規制の対象に例外がない。とはいえ、子どもの声がカラオケや工場の音などと同列に扱われていいのだろうか。静かに暮らす環境を守りたい住民の気持ちは切実だとしても、このままでは子どもは町から締め出されてしまう。

 ドイツでは二〇一一年、「子どもの声は騒音ではない」とする法改正をした。住民から閉鎖や移転を迫られる裁判が相次ぎ、敗訴した幼稚園が閉鎖に追い込まれていったのがきっかけだった。

 外で思うように遊べない、歌えない、楽器も鳴らせない。それは子どもの生活ではない。笑ったり、泣いたり、感情を表に出すのは成長の証しである。東京都も、子どもの声を規制から外すことを検討中だ。保育所建設の際には地域と十分な対話を重ねたい。

 知らない子どもというだけで、その声は不快にさせるのかもしれない。地域の祭りに園児が参加するなどして共生を模索する試みも生まれている。

 誰もが幼かったころがあったことを思い出し、子どもたちを温かく包み込みたい。

 

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