社説:宝石サンゴ密漁 中国の法治は口だけか

毎日新聞 2014年11月05日 02時33分

 宝飾品となる宝石サンゴの密漁が目的とみられる中国漁船200隻以上が小笠原諸島や伊豆諸島周辺に集まっている。資源の枯渇が懸念される希少なサンゴだ。世界遺産に指定されている小笠原の貴重な資源の一部でもある。一刻も早く違法な操業を食い止めるべきだ。

 日本近海で取れる赤サンゴなどの宝石サンゴは中国で珍重され、高値で取引されている。中国では赤が縁起のいい色とされ、吉祥物として富裕層に人気だ。ここ数年、価格が数倍に高騰し、高級な赤サンゴは1グラム当たり最高1万元(約18万円)にもなるという。

 中国政府は赤サンゴをパンダと同じ国家1級重点保護動物に指定し、国内での漁や売買を禁じている。2008年には中国の申し入れで赤サンゴなど4種のサンゴがワシントン条約で輸出入が規制されるリストに加えられた。しかし、摘発されるリスクを冒しても一獲千金を狙う密漁者が後を絶たない。

 数年前から沖縄周辺海域や五島列島などにサンゴ密漁の中国漁船が出没していたが、沖縄周辺での取り締まりが強化されたため、良質の赤サンゴの漁場として知られていた小笠原などに移動したのではないかとみられている。

 海上保安庁は10月以降、違法操業の中国人船長らを相次いで逮捕している。尖閣諸島周辺の監視活動のため、船や人員が手薄になっているともいわれるが、水産庁などと協力し、引き続き、取り締まりに力を入れてほしい。

 一方、密漁に対する日本の罰金(担保金)は最大で1000万円。億単位の収益が得られるケースもあるとされる密漁を抑止するには低すぎるとの指摘もある。捕まれば、利益にならないことを密漁者にはわからせるため、罰金の引き上げも検討対象の一つだろう。

 中国政府は日本政府の抗議を受け、「密漁に対する法の執行を引き続き強化していく」(外務省報道官)と、取り締まりを強める方針を示した。自ら保護対象にしているサンゴ資源を自国民が密漁するのを放置していては、「法治の徹底」を目指す習近平政権の本気度が問われる。

 取り締まりにとどまらず、漁民に対する教育や指導、密漁品の流通阻止など違法操業を実効的に防止するために動くべきだ。密漁というモラルの欠如が中国の印象を傷つけ、日中関係に悪影響を与えていることにも目を向けてほしい。

 日中両国が密漁取り締まりのために協力することも可能だ。古来、サンゴを珍重してきた共通の歴史もある。資源保護で協力できれば、互恵関係につながるだろう。

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