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リベレイション 作者:tempester08

6 鍵

 別棟を出るとすぐそこに駐車場がある。
 職員室から出て行ってすぐに駐車場に向かった。

 今まで確信が持てていないのは、奴らが本当に目が見えていないかという事だ。

 耳、聴覚だけで動いているのなら、やりようはある。
 しかしそれを確認するには、並大抵ではない覚悟がいる。

「誰が最初に行く?」

 笹瀬川が駐車場の現状を見て、誰か立候補を求めた。
 駐車場にはそれはたくさんの『奴ら』がいた。
 グラウンドからこちらに移動してきたのだろうか。

 真相は分からないが、事実はたくさんの『奴ら』がいるということだ。
 『奴ら』の視力が生きていれば、確実に見つかって、殺される。

 ペンを投げて実験をしたが、まだ確実な確証は得られていない。
 それは笹瀬川も同様だった。
 恐らく耳しか聞こえていないはずなのだが、どうも自信が無い。

 誰かが行かなくてはならない。
 姿を現し、『奴ら』の視界に入る実験。

 襲われなければ生きられるし、視覚がゼロだという確証が得られる。

 恐ろしい賭けだ。
 命を賭けている。
 いや、今現在、昇降口から駐車場を覗いているこの状況も、命がけなのだ。
 いつ『奴ら』が通ってくるか分からない。

 早く動かないと、後悔する羽目になるかもしれない。
 動け。行動するんだ。
 誰かが行かなければならないのなら、一番犠牲になっても問題ない奴が行くしかない。

 それは紛れもなく、俺だ。

「俺が行く」
「久志……!?」

 杏奈が進み行く俺の肩を掴んだ。

「何であんたが行くのよ。まだ相談してないじゃない」
「その時間がもったいないんだ。そうだろ? 笹瀬川」
「そうね。行ってくれるなら助かるわ」
「笹瀬川さんまで……!?」

 杏奈の手を振り払い、俺は刺又を持って駐車場へと足を進めた。
 できるだけ音は立てない。
 心臓の鼓動すらうるさかった。

 史上最高レベルで心臓が高鳴っている。
 これが恋……? 

 なんてアホなこと考えていないとやっていられない。
 たくさんの車が立ち並ぶ。その間を『奴ら』が闊歩していた。
 ゆらゆら。
 目的が見えない。
 ただ歩いているように見える。

 突き進む。
 ゆっくり。 
 じっくり。

 ごくりと唾を飲み込んだ。
 うるさい。 
 ばれたらどうする。
 呼吸も止める。

 ぐっとこらえた。
 駐車場に足を踏み入れた。

 『奴ら』が車の陰から突然姿を現した。

「……!!」

 心臓が飛び出るとはこの事か。
 致死性の物体が俺の前を通る。
 まるで圧倒的強者に睨まれているようだった。

 指の一本たりとも動かせない。
 しかし。
 『奴ら』が俺に襲い掛かってくる様子はない。

 『奴ら』が俺を素通りして、駐車場のどこかに消えていった。

 これなら。
 足元に転がる石ころを拾った。

 音をたてないように下手投げで、石を投げる。
 地面に引かれていった石ころは、カツンとよく響く音を奏でた。

 反応が起こった。
 『奴ら』が音の発生源に向かって、ゆっくりとだが移動し始めたのだ。

 これで、確定か……?
 秀がいれば断言してもらえるのに。

 ……居ない奴の事を考えても仕方がない。
 笹瀬川も居る。
 この現場を見ていたはずだ。
 後ろを振り返る。

 手を振って、こちらに来いと合図した。
 全員ゆっくり、足音を立てずに移動を開始する。

 それぞれ武器を持って、油断なく俺の所まで来た。

「見えていないわね……」

 笹瀬川もそう思ってくれたようだ。
 それもそうだろう。
 現在進行形で俺たちは姿を曝しているのに、『奴ら』は襲ってきているように見えない。
 その辺をフラフラして、ただ歩いているだけだ。

 杏奈が木戸の肩を叩いた。
 木戸はコクリと頷いて、車のキーを取り出した。

 ここからがネックになるだろう。







 出発する前に笹瀬川が作戦の危うさを示してきた。

「一番厄介なのは、恐らく音になるでしょうね」

 この時点で『奴ら』は耳しか聞こえないという仮説は成り立っていた。
 だからこそ、笹瀬川は危機を感じていたのだ。

「『奴ら』は唯一である聴覚をフルに使ってくるわ。それは私たちよりも鋭敏な感覚かもしれない。そして、問題になってくることがあるわ」
「足音?」

 木戸が首をひねって疑問を解消しようとしているが、笹瀬川は首を横に振った。

「確かについて回る問題だけど、これは注意すれば最小限に抑えられるわ。私は今、目の前のことを言っているのよ」
「というとなんですか? ここからの脱出を言ってるんですか?」

 柏田が早く行こうと言わんばかりに、職員室の扉に手をかけていた。

「それもある。だいたい『奴ら』の数の問題は解決されないわ。ここを出るにも命がけになる。けど、車を使うにはクリアしないといけない、一つの関門があるわ」
「俺、頑張って運転しますけど?」
「察しが悪いわね。その前の話よ」

 笹瀬川が木戸のポケットに手を突っ込んで、車のキーを取り出した。

「これ、何に見える?」
「車のカギだろ」
「そう、車のカギ。赤外線タイプの。遠くから開錠が可能ね。これは利点の一つよ。けど、車のタイプによっては、障害が発生する場合がある」

 一拍置いて笹瀬川が喋り倒す。

「まず私たちはどれがどの車か特定する必要がある。それは難しくないわ。このボタンをポチッと押せば、勝手に開錠される。あとは開いた車に飛び込むだけ」
「それの何が問題なんだ?」

 遠まわしで話しているため、何を言いたいのか分からない。
 しかし杏奈は何かに気付いたように、「あ!」と言った。

「気づいたわね」

 笹瀬川がパチッと指を鳴らした。

「なんですか? ボク分からないんですけど」

 柏田がムスッとした顔になる。
 俺も分からないから、戸惑いを隠せない。

「見たことない? このタイプのカギで車を開けると、ピッピって車が音を出すところ」
「……そういえば」

 確かにそういう場面は見たことがある。

「音が出るならまずい。『奴ら』に気付かれるぞ」

 折角、車を使うという案が出たのに、今更こんな障害が出てくるとは。

「音が出ないタイプもあるはずよ。それに賭ける?」

 確証の無いものに命を預けたくはない。

 笹瀬川がニヤッと笑った。腹黒い笑いだ。

「案はあるわ」

 実に頼もしい奴だ。





 木戸は早速キーのボタンを押した。
 そして一つのミニバンがハザードランプを数回点滅させて、ピッピと音を出した。
 『奴ら』が黒いミニバンに殺到する。
 『奴ら』がほどよく、車に集まってきた。
 笹瀬川が次の準備を促した。

「木戸、次よ」
「アイアイサー」

 木戸は二つ目(・・・)のキーを取り出した。
 次はオレンジ色の軽自動車が開錠された。
 しかし、開錠音が鳴り響いた。
 電子音は空気を振動させ、『奴ら』の知覚に届いたみたいだ。

 三つ目のカギはない。
 ここはあの軽自動車に乗り込むしかない。

「ムーブ、ムーブ!」

 笹瀬川が命令を出す。
 簡単な英単語だから分かる。
 意味を考えている内に、逆に冷静になれた。

 動け。移動するんだ。
 『奴ら』は黒いミニバンに移動していて、軽自動車からは距離が遠い。

 距離にして三十メートル程度。
 数秒で着く距離だ。
 陸上選手の杏奈が真っ先に、後部座席に乗り込んでいる。

 扉を開けて、笹瀬川と柏田を呼んでいる。

 早くしないと、『奴ら』が来る。
 走れ。走れ。

 そこで、電撃的に致命的な失敗を思い出した。

「クソッ!」

 気づいたからにはやらないといけない。
 なんて浅い失敗。
 車に全て目を奪われた。

 軽自動車を素通りした。乗り込めない。少なくとも今は。
 車に乗ろうとしない俺に対して、木戸が「早く乗れ!」と叫ぶ。

「門が開いてないんだ!」

 それだけ言いながら、門まで疾走する。
 くそ。刺又が邪魔だ。
 しかしこれが俺の命綱。

 門までたどり着くと、鍵がかかっていた。
 しまった。鍵がついているのか。

 南京錠だ。
 カギなんて持っていない。

 後ろを見た。
 エンジン音がかかり、車に群がる『奴ら』と俺に来る『奴ら』に二分されている。

 どれだけ引っ張っても南京錠が開く訳が無い。
 腰に差していた金槌で南京錠を殴る。

「ッ! 壊れねぇ!」

 何度も殴る。
 ガンガンと金属音が周辺に鳴り響く。
 後ろの『奴ら』が俺の位置を補足しているはずだ。

 焦りが俺の背中を這いずり回った。
 ぞわぞわする。
 死が間近にまで迫っている感覚。

「ぶっ壊れろ!!」

 狙いも定かでは無い一撃が、南京錠に激突した。
 金属部分を割り、鍵が外れる。

 後ろを振り返った。
 すぐそこまで来ている。
 立てかけた刺又を手に取って、一体の『奴ら』を押し込んだ。
 体勢を崩し、転ばせる。
 先頭の奴を狙ったので、後方にいた奴は躓いて転んでくれた。

「ラッキー……!」

 少しだけ時間が稼げた。
 その間に門を開く。

「ぬぅおらぁぁあああああああ!!」

 横開きの門を一気に開かせる。全身の筋肉を使って、重い門が開いた。
 よし。これなら車一台分は通れる。

 しかし振り向いたとき、俺は死を確信した。
 なんでこんなに近くに。

 目の前に一体『奴ら』がいた。

「オォォォ……!!」

 大口を開けて俺に噛みつこうとする。
 俺は『奴ら』の両肩に手を押し返す。
 しかし力はこいつの方が強い。

 『奴ら』の顔が俺の間近まで来た。ガチガチと顎を閉じたりしている。
 喰う気だ。
 凄い力で押し込んでくる。

 もう駄目かと思った時、パッパー! とクラクションが鳴らされた。
 目の前の『奴ら』が音の方向を向いた。

 今だ。

「オラァ!」

 片足で『奴ら』の腹を蹴って、距離を取る。
 腰に下げていた金槌を手に取って、思いっきり頭をぶん殴った。
 一度ではなく、二度殴る。止めは車の衝突だった。
 徐行レベルの速度だったが、それでもかなりの衝撃だったように思える。

 『奴ら』は少し吹っ飛んで、動かなくなった。
 車の激突が止めになったようだ。

 窓から木戸がこっちを見て叫んだ。

「早く乗ってくれ! 『奴ら』が来てる」
「分かった!」

 開いてる席は助手席だけのようだ。
 車の反対側に回って、すぐさま乗り込む。
 刺又は大きすぎて、置いて行かざるを得なかった。

「オーケーだ。飛ばしてくれ!」
「おっしゃ!」

 オートマの車だったようだ。
 これならゴーカートと変わらない。
 アクセルとブレーキ踏むだけで、勝手に進んでくれる。

 木戸はアクセルをふかして、一気に門を潜り抜けた。
 バックミラーを見ると、大量の『奴ら』が俺たちを追いかけてきていた。
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