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リベレイション 作者:tempester08

3 それぞれの動き

 少し喧嘩したからと言って、関係が破壊されるほど浅い付き合いと俺と杏奈はしていない。
 それは秀にも言える事だ。

 だからこそ、恋人であった杏奈は俺が秀を殺したことを許せない。

 だが、『奴ら』が蔓延するこの世界でそんな事を言っていれば死ぬのは杏奈だ。
 そして協力を取り付けなければ、俺だって死ぬ。

 そうでなくても、『奴ら』から逃げる方法などあるのだろうか。
 前方では杏奈が廊下の曲がり角で、しゃがんで身を潜めていた。

 肩を軽く叩く。
 弾かれたが、先ほどまでの完璧な拒絶ではない。
 一瞬だが間があった。
 それが少しだけ嬉しかったが、状況が状況だ。

 現在4階。
 特別教室が立ち並ぶ。
 科学室とか生物室とかだ。
 そっと廊下の先を覗く。

 『奴ら』だ。
 傷口が酷いが、すでに血が止まっている。
 血が固まっているという表現の方が正しい。
 皮膚がはがれ、筋肉が見えている奴もいる。

「ひでぇ……」

 あれが生きる屍という事か。
 生きているかは微妙だが、動いているのだ。
 化学的根拠があってあの物体は動いている。

 ATPがどうのこうの。リン酸が要るとか要らないとか。
 その前に糖質。脂質。

 だからこそ、『奴ら』は人間を襲うのかもしれない。

「久志……」

 震える声で呼ばれた。
 さっきまでの険悪ムードはどこかに吹き飛んだ。

 現状を把握したのだ。
 ようやく。俺もだ。
 ここまで酷いと思わなかった。

 世間をにぎわす出血性のウィルスなど、比ではない。
 人に感染する何か未知のものがあそこにはいる。

 いやこの考えも早計なのかもしれない。
 何でもかんでも、ウィルスのせいにしていたら、キリが無い。

 すぐに頭を引っ込めて、『奴ら』の視界に入らないようにする。

「四階は駄目だ。すぐにしたに行こう」
「分かった」

 杏奈は俺とは目を合わせようとせず、三階に降りた。
 まだ仲直りはしないという事だ。

 ため息を吐きつつ、三階へ。
 階段には『奴ら』はいない。運が良い。

「どこに行くのよ」

 杏奈が少し怒っている声音で訪ねてきた。
 お前だって俺の考えを引き出そうとしているじゃないか、という言葉は飲み込んだ。
 今はそういう状況じゃないんだ。秀が死んだことを思い出せ。無駄にしてはならない。

 しかし、どこに向かうべきだろうか。

「ちょっと待て」

 スマホを取り出し、親に連絡する。
 駄目だ。回線が込み合っているとかで、全くつながる気配がない。
 その様子を見て、杏奈もスマホを取り出した。

 両親の状況は確認できない。
 生きているのか、死んでいるのか。『奴ら』になっているのか。
 できたら生きていてほしい。

 かなり低い確率だ。
 それでも、生きているという前提じゃないと動く事が出来ない。

「まずは親と合流しよう。話はそれからだ」
「そうね」

 杏奈がスマホをしまった。親との連絡は不可能なようだ。
 警察にも救急にも連絡が取れない。
 この状況を俺たちだけで切り抜けるしかない。





 いやー、本当にやばい。
 先に逃げ出して良かった。
 まさかこんな事になるなんて。

 放送の『高橋さんが~』が流れ始めた時点で、俺は逃げ出した。
 これも修練のたまものなのです。
 ちょうどよく、テロリストが襲ってくる妄想をしていたからこそ、逆に冷静になれたのでござる。
 うほ。
 ちょっとテンションが高すぎる。
 いかんいかん。
 これでは『奴ら』まっしぐら。

 ああはなりたくない。

「やばいって、どうすんの。これから……」

 俺は技術室に入って、ガサゴソ武器になりそうなものを漁っていた。

 結構いいものがありそうだと思ったが、カッターナイフとかそんなものしかない。

「ファック!! ド畜生! なんもねぇ!」

 するとドンドンと技術室のドアが叩かれた。

 ああああああ!! 
 来た来た。 
 『奴ら』だ。

 もう何でもいいから使うしかない。
 カッターナイフを片手に、ドアに近づく。

 すると、控えめにもう二回ドアがノックされた。

「ちょっと、誰かいるんでしょ。開けなさいよ」

 女子の声だ。
 良かった。『奴ら』じゃない。
 カッターナイフをポケットにしまって、ドアをすぐにあけた。

 透明フレームが特徴のメガネをかけた女の子だった。 
 黒髪長髪のロングヘア。身長は女の子の平均。胸は平均位かな。大体平均。
 でもこの子が平均に留まらないのは、俺でも知っている。
 その前に同じクラスだ。

「笹瀬川さん……?」
「何で疑問形なのかしら? 木戸」

 一回も話したことないのに速攻で呼び捨てにされた。いいけど。
 俺ってクラスでそういう立場だし。カースト低め。低めっていうか、最下層。底辺だ。

 それがカースト上位の笹瀬川さんに名前を知ってもらえていただけ、まだマシだという話だ。
 流石に悲しくなってきた。

 扉を閉めて、カギをかける。
 この学校は内側から鍵をかける事が出来る。

 一時しのぎ位ならできるのだ。
 それをみんな外に飛び出すから、『奴ら』になるんだ。
 立て籠もっても状況打破にはならないのは分かってるけど。

「それで、武器は?」
「えっと?」
「武器よ、武器。そのためにここに来たんでしょ?」

 そうだけどさ。
 話が一段階飛んでいて、話辛い。
 普通はここで何してるの? から始まるんじゃないかな。
 いいけど。話が早くて助かる。
 でも、期待には応えられない。

 笹瀬川さんは俺の後ろを見て、机に広げられた工具の数々に目を見張った。

「なによ、良いのあるじゃない」

 俺の横を通り過ぎて、色々吟味している。

「あの……」
「ちょっと黙ってて」

 笹瀬川さんは「安全装置が厄介ね……」とか言っている。

 少し恐怖を覚えた。

 笹瀬川さんは頭が良い。
 勉強ができるというのはもちろんだが、切れ者である。
 いい案をすぐに、ズバッと出すし、自分の意見を持っている。

 最近の若い日本人には少ないタイプの稀有は女の子だ。

「最強はくぎ打ち機だけど、リーチが如何せん短いわね。汎用性の高さだと、金槌が最強……?」

 くるっとスカートをなびかせ、笹瀬川さんが振り向いた。
 ひとつ金槌を投げてよこす。

「わわ……!」

 金槌が弧を描いて飛んでくるのを何とかキャッチして、笹瀬川さんを見る。

「さ、行こうかしら」

 俺はいつからあなたの下僕に成り下がったのでしょうか。
 偉そうに進む笹瀬川さんの後ろを俺は黙ってついて行った。

 俺ってマジ紳士!





 最高にいい気分なのだ。
 こんな世界をボクは夢見ていた。

 『高橋さん』放送が鳴った後、ボクは早速家庭科室に向かった。
 二本の包丁を携え、不審者を撃滅するためだ。

 それがどうだ。
 まるで映画のようにゾンビみたいな奴らが、増殖し始めた。

 ボクは笑いながら廊下を闊歩する。
 一人、ゾンビ学生が襲い掛かってきた。

「ふむ」

 身長は百八十程度。
 恵まれた体格。柔道部だと思う。この学校はかなり武道が盛んだから、ボクも何かしら参加しようとしていたのだが、今日でそれも叶わないと見た。

 本来の動きではないその男の首を掻っ切る。

 柏田流実践剣術の敵ではない。
 正当防衛という事で死んでくれたまえ。

 ゾンビ君は血をドバドバ流しながら、地面に倒れた。
 それでもすぐに立ち上がってくるのが、こいつらの特徴でもある。

 躊躇はしてはならない。

 それが柏田流実践剣術、ただ一つの教えだ。
 それ以外は刃物という刃物の扱いを学ぶ。

 つまり、ボクは地上最強の刃物使いなのだ。

 しかしだ。
 今の日本。その前に世の中で、柏田流実践剣術が日の目を見る事はないと思っていた。

 今日この日まで。

「最っ高の日だ! 今日この日を記念日にしよう!」

 ゾンビ君の首筋に包丁を埋めた。
 びくりとゾンビ君は痙攣して、それっきり動かなくなった。

「やはり、狙うなら首か。それも深くいかないとダメ、か」

 腕が鳴る。
 これからどうしようかと思った時、廊下の先に保健室が見えた。

 教室内からたくさんのゾンビ君たちが溢れ出した。
 数は、数えるのも面倒なレベルだ。 

「ふむ、ふむん?」

 いくら地上最強の柏田流実践剣術と言えど、あの数相手では分が悪い。
 ボクは男に生まれたかったが、それも致し方なし。

 女という武器を生かし、この場は一時退散する事にしよう。
 なに。
 これから楽しい事はいくらでもある。

 私は嫌いなスカートを翻して、廊下を疾走する。
 私の顔には笑みが張り付いていた。
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