スマホは友だちや家族を超えた
あなたは友だちとメールで最近の共通の知人について情報交換していた。「アイツは糖尿病になったらしいぜ」。そうか、成人病は恐いな、と思いつつあなたはメールを返信する。「俺たちもそろそろ気をつけないとな」。するとメールを送ったとたんに、スマホのメーラーがご丁寧にもアラームを発して教えてくれた。「あなたの最近の飲食状況を記録しています」。なんと、驚いたことに、こいつ(スマホ)はあなたが撮った写真も分析してカロリー計算をしてくれていた。「一日の平均は2900キロカロリー。あなたの基礎代謝からすると900キロカロリーも多いわ」。マジかよ。「とくにオススメなのは、このサプリよ」。あなたは否定することなく、注文ボタンをクリックした。
あなたは友だちとメールでアーティストの新作について盛り上がっていた。「今度、ライブに行こうぜ」。よし、と思いながら、あなたは返信した。「でも、なかなかチケットを取れないらしいぞ」。しかし、同じくメーラーが親切に教えてくれた。「普通ならね。でも、このアーティストの限定版ブルーレイ・ディスクに同封されている応募券を使えば、当選確率が10%もあるらしいわ」。おなじくあなたはあらがえなかった。あなたはそのままブルーレイ・ディスクをいわれるままに注文した。
あなたがスマホの動画サイトを見ながら、そろそろ寝ようかな、と思っていたときだ。スマホは寂しいあなたにささやく。「ねえ、最近、ももいろクローバーの『ピンキージョーンズ』ばかり聴いていない?」。ううむ、好きなんだよ、とあなたは答える。「青春の思い出ってやつ?」。いや、そうじゃないんだがね、メロディーラインがいいなって。「この曲の作曲者を知っている?」。知らないな。「NARASAKIさん。COALTAR OF THE DEEPERSの」。ええ!あのバンドの? 「そう、1枚だけ在庫あるけれど、彼らのCDアルバム買いたくない?」。もちろん、買うに決まっているよ。
と、やや近未来小説風に書いてみた。しかし、これは遠い世界のことではない。サルトルは、「人間は自由という刑に処せられている」と言った。しかし、あなたはもはや自由に所有したはずのスマホの刑に処せられている、とすら言える状況だ。もはや、あなたの世界はスマホのものだと言えるかもしれない。
スマホをなくすと、生活できない人がいる。ただ、それは多くの人にとって当然だと思う。なぜならば、スマホは生活基盤そのものだし、ライフログとしての役割を負っている。しかもこれ以降、スマホは単なる生活記録や生活ツールであることをやめ、生活アドバイスツールになろうとしている。
ラストワンマイル〜グーグルをめぐる戦争
現在、主要な戦争が2つある。世界とイスラム国の闘いは、もはや戦争というにふさわしい。そして、もう1つは、ラストワンマイル戦争と呼ばれるものだ。前者は世界政治を、そして後者は世界経済の動向を占う。ラストワンマイルとは、文字通り、「最後の1マイル」の意味だ。ネットショッピングなどで購入された商品を各家庭に配達する行為を指す。各家庭に向けて実際に商品を配送することは、単に「物流」以上の意味を持つ。それらの家庭に向けたインフラを持つことだし、何より、どの層(年齢・性別・地域)が何(商品・時間・価格帯)を購入するかといったビッグデータを得ることでもある。
例えば、ここ日本でもラストワンマイルに参入が続いており、Yahoo!ジャパンも「すぐつく」なるサービスを開始した。これも、単なるサービスよりも、ビッグデータ取得の側面が大きい。というのも一度ビッグデータを入手してしまえば、広告ビジネスなどに応用が可能だからだ。
私もこれまでの当連載で「アマゾン受注前予測発送の衝撃」や「ウォルマートは配送に顧客の手も借りる」などでその傾向を書いてきた。