木造住宅など4棟を全焼した現場(28日午後4時45分ごろ、別府市松原町)
二十八日午後四時二十分ごろ、別府市松原町の木造家屋密集地から出火。貸店舗や住宅など四棟(計約六百平方メートル)を全焼、隣接する三棟の一部を焼いた。けが人はなかった。
別府署や同市消防本部などによると、三世帯四人が被災した。全焼したのは▽福田直美さん(55)経営の昆布販売店が入った店舗兼倉庫▽甲斐五雄さんら二人が住む民家▽無職緒方輝子さん(77)が住むアパート▽二つの空き店舗がある建物―の四棟。いずれも木造で二階建てまたは三階建て。
火は一気に燃え広がり、約一時間後に鎮火した。狭い道路を挟んで北側にある民家、店舗計三棟の壁などを焼いた。
現場は松原公園の東側で、国道10号から山側に百五十メートルほど入った所。
近くに住む自営業男性(33)は「昆布販売店の入った店舗兼倉庫の二階付近から、最初に炎と黒煙が上がったのを見た」と話している。
同署などは二十九日午前十時から実況見分をして、火元や出火原因を調べる。
●大火の記憶「震えた」 古い建物、改築進まず
黒煙とともに上がった火の手は、一気に古い木造家屋密集地をのみ込んだ。二十八日夕、民家や店舗など七棟を焼いた別府市松原町の火災。「十五年前の松原大火の記憶がよみがえり、足が震えた」「防災上の問題を解決しなければ、安心して暮らせない」。騒然となった現場で、地域住民らは不安そうに消火活動を見守った。
「もっとホースを延ばせ」「行方不明者はいないか」「危ない。近づくな」。隣の松原公園に集まった市民ら数百人の前で、消防署員らの消火作業は約一時間に及んだ。
被災した福田直美さん(55)は、親から看板を引き継いだ一九三三年創業の昆布販売店を失った。「火事になれば、隣近所に燃え広がる不安は常にあった」。店の前でぼうぜんと立ち尽くし、「大事な帳簿や商品が焼けてしまった。もう、商売はできない…」と語った。
戦災を免れた別府市には、南部地区を中心に老朽化した木造家屋の密集地や商店街が数多く残る。狭い路地に古い建物が軒を連ねる松原町では一九九二年二月、市場や店舗など十二棟を全焼する大火が起きた。今回の火災はその隣接地。
市内では今年一月にも浜脇地区の木造家屋など十一棟を延焼。住宅密集地の防災対策は長年の課題となっている。
「この辺り一帯は古い建物が立ち並び、一度出火すると手に負えなくなる。消火器を持って駆け付けたが、どうすることもできなかった」と近くに住む女性(54)。
焼け落ちた建物を無念そうに見詰めながら「古い住宅の多くは地権者、建物の所有者、居住者が異なり、権利関係が複雑なため、建て替えが進まない。地域や行政で何らかの対策を講じなければ、同じ被害が繰り返される」と続けた。