ついにJASRACを追い込むか? ファンキー末吉と江川ほーじんの闘いに決定的な新兵器が登場(松沢呉一) -2,388文字-[無料記事]
2014年11月04日18時41分 カテゴリ:★無料記事 • 松沢流世界の読み方
JASRACは払わないでいいお金まで請求してくる
20代の頃、私は音楽業界にいました。著作権を理解しておかないとまずいと思って本を買ってきて勉強をしましたさ。音楽業界を離れてからも、著作権の管理に関わる機会があって、音楽業界時代の体験が大いに役に立ってます。
JASRACは意図してなのか、うっかりなのか、本来は払わないでいい金を要求してくることがあります。こちらとしては払うべき金を払う気満々ですけど、払わなくていい金は払いたくない。当たり前のことです。その時に著作権の知識があるのとないのでは大違い。現に「この分の請求はおかしいですよね」と対抗して、払わずに済んだことがあります。
それなりに大きな金額の話だったのですけど、払ってしまう人、払えないので使用を諦める人もいるんだろうと思います。著作権の知識がないと損をします。
その時の経験から、専門学校で著作権を教えていたこともあるのですが、昨今のITをめぐる著作権についてはようわからなくなってきています。わからないながらも、メルマガでは昨今の著作権事情についても月に何度かは取り上げています。
JASRACも頻繁に登場するのですが、おおむねJASRACを擁護する内容になるのが皮肉です。「カスラック」などとして、ムチャクチャな批判が出回ることが多く、その批判がいかに間違っているのかから始めなければならない。
音楽著作権については、既得権に胡座をかく大手音楽出版社の問題、そことつながる放送局の問題などなどもあるわけですが、JASRAC自体の問題に関して言えば、徴集した金が正しく分配されないことに尽きます。正しく分配され、その明細が公開されているのであれば、払う側も納得する。正しく配分されていないから、払う側は出し渋る。
たとえば「自分の曲をコンサートで演奏しても金を払わなければならない」という不満の声がありますが、スジとしては払うのが当然。すでに財産権の管理は作詞家、作曲家の手元から離れているわけですから。饅頭の製造業者だからと言って、スーパーの店頭にある饅頭を金も払わずに勝手に食っていいわけではないのと同じです。食うんだったら、通常の料金を払って買うのがスジ。
この時に、JASRACの取り分や音楽出版社の取り分を除いて、数分の1になるにせよ、確実に自分のところに戻ってくるんだったら、払うことの抵抗感は少ない。卸や小売の取り分を除いて、売上の3掛けでも4掛けでも契約通りに戻ってくれば饅頭屋は納得。しかし、それが戻ってきているのかどうか、いくらになって戻ってきているのかがわからないから不信感が高まる。
現実にはその金は作詞家、作曲家に戻ってきていない可能性が高い。これは包括契約によるところが大きい。
放送局でもライブハウスでもピアノバーでも月間ナンボ、年間ナンボでまとめて金を払います。私もラジオに関わっていた頃に経験がありますが、ラジオ局では、著作権の調査期間は使用した楽曲についてのシートに細かな書き込みをします。それをサンプルにして包括料金を決定し、配分も決定します。
正しい分配のために立ち上がったファンキー末吉と江川ほーじん
仮にサンプリングによって上位100曲に配分するとなれば、101位以下には金が入ってこない。上位100曲が独占的に使用料をもっていきます。101位以下は使用されているのに分配金はゼロ。100位以上は実際の使用料の2倍にも3倍にもなる仕組みです(こういうシンプルなモデルになっているのではなく、実際には、売れている曲でも、作詞家作曲家にはきれいに分配されていない可能性が高い)。
これはやむを得なかったところもあります。使用した曲のすべてをチェックして、すべてを正確に配分していると、人件費が高騰します。そこでサンプルを元にざっくりと配分する。これによって使用する側も煩雑な書類の提出を避けられる。どっちにとってもメリットがありました。
しかし、「その面倒を厭わないので、ちゃんと配分しろ」と言い出すのが出てきました。ファンキー末吉です。「自分が経営するライブハウスの使用楽曲を申請するので、正確に配分をしろ。その明細を公開しろ」と。
JASRACを擁護することの多い私ですけど、これはファンキー末吉の方がスジが通っています。本来はそうすべきなのに、作業量としてできないとされてきたことについて、ライブハウス側が、その手間をかけて、本来あるべき分配を求めたわけです。
この闘いをファンキー末吉はずっとやっているわけですが、これに連動して、江川ほーじんらが「演奏曲目入力システム」を提案。
これは素晴らしい試みです。12月1日を待ちましょう。
30年前であれば、「物理的に不可能」「人件費がかかりすぎる」との言い分が成立したでしょうが、もうそんな時代ではありません。物理的に可能であり、人件費は今よりかからなくなる。
私も以前から、「放送で使用した楽曲なんざ、ソフトを導入すればすぐさま確定でき、分数までカウントできる。ライブハウスでは書き込みは必要だとしても、JASRACがシステムを作ればオンラインでほぼリアルタイムにJASRACに通知でき、その場で計算がなされるのだから、包括契約をする必然性はすでにない」と言ってきたのですが、JASRACがやろうとしないので、このシステムをミュージシャン側、ライブハウス側で構築しようということです。天晴。
「カスラック」として無闇にJASRAC批判をする人たち、さらには「著作権なんていらない」などと暴論を言う人たちは、改めてこの機会に著作権を理解し、JASRACの役割も理解し、「何が問題か」を把握した上で、ファンキー末吉、江川ほーじんらの闘いを支持した方がよいと思いますし、著作権利用者であるライブハウスやコンサート主催者はこのシステムを使って申告すべし。その数が増えれば増えるほど、JASRACの言い分は通らなくなります。
ところで、サンプラザ中野は何をしているの?