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himaginaryの日記

2014-11-04

カレツキーの6年の教訓の8つの間違い

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ケインズは正しかった、と謳い上げたアナトール・カレツキーのロイターコラム「The takeaway from six years of economic troubles? Keynes was right.」(邦訳「危機後の金融・財政「実験」が告げる教訓=カレツキー氏」)に対し、Tony Yatesが、8つの事実誤認がある、とインディペンデントのサイトで指摘している(H/T Economist’s View;ちなみにEconomist's Viewは少し前にカレツキー記事取り上げている)。以下はその8項目。

  1. 財政政策だけが重要で、中銀のしていることは余興に過ぎない、と読者を説得しようとしていること
    • 中銀は、危機前の一般的な金利水準だった5%から0%に急速に金利を引き下げ、その後に非伝統的な資産購入を行ってバランスシートを膨らませた。米国の場合、その額は4.5兆ドルに達した。
    • 金融と財政のどちらの緩和策が欠けても、デフレスパイラル金融の内破と社会経済の崩壊が起きていただろう。即ち、どちらも必要不可欠だった。
  2. 危機前のマクロ経済政策に一律に「マネタリズム」というレッテルを貼っていること
    • マクロ経済の安定のみに責任を持つ中銀」を意味することを意図しているようだが、それは万人の認めるマネタリズムの定義ではない。
    • 危機前には、反循環的な財政政策が明確に組み込まれていた――少なくとも、先進国における税や給付金や財政支出の制度設計を通じて「自動安定化装置」が働く限りにおいては。
  3. 非伝統的金融政策が重要でないと考えているようにみえること
  4. 不況時の民間需要の後退を補えるのは財政政策だけ、という奇妙なコメント
  5. 財政政策金融政策より重要であることを財政優位と呼んでいること
    • しかも、それを恰もケインズが肯定するであろうものであるかのように描いている。
    • しかし経済学での財政優位の定義は「既存の債務物価上昇によって目減りしない限り、支出マイナス税が政府債務不履行を意味するようにすること」である。これは政府がやろうとしたことでもなければ、ケインズが良いことと認めたであろうことでもない。
  6. 景気回復が軌道に乗ったら、時間軸政策によって中銀が行動不能に陥るという主張
    • 時間軸政策を打ち出した当局者は、同政策はデータ次第である、と注意深く強調している。
    • 時間軸政策に弱点があるとすれば操作の余地が大きすぎることであり、小さすぎることではない。
  7. 「予算政策マクロ経済への影響に対する興味は驚くほど無かった」という記述
  8. 英米とユーロ圏のパフォーマンスの差を財政政策の重要性の証拠としたこと
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