IPCC報告書:対策遅れコスト1.4倍 課題も山積
毎日新聞 2014年11月03日 10時07分(最終更新 11月03日 10時18分)
国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2日公表した第5次統合報告書は、産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑える国際目標を実現するために「多様な道筋がある」と明記した。京都議定書に代わり、全ての国が参加する新たな温暖化対策の国際枠組みの合意期限まで1年余り。国際交渉を後押しする科学界の強力なメッセージだが、実際の政策に移すとなると容易ではない。
報告書は、今のペースで温室効果ガス排出が続くと今世紀末に世界の気温は最大4・8度上昇すると予測した。その影響は甚大で、4度上昇した場合、例えば、アフリカでは作物生産や人々の生計が被害を受ける恐れが、小さな島国では低い土地や沿岸部で洪水や浸水のリスクが、それぞれ非常に高まると分析。「恵まれない境遇の人々や地域がより大きなリスクを抱える」と警鐘を鳴らした。
また、二酸化炭素(CO2)の大幅削減のため、特に重要な手段として、石炭火力発電所などから生じるCO2を回収し、地中に封入する「CCS」と呼ばれる技術を挙げた。今回、報告書を議論したIPCC総会に参加した日本政府関係者は「CCSの大規模導入なしに『2度目標』の実現は不可能だと、科学者は確信しているようだった」と話す。
CCSは排出削減の「切り札」として、日本政府も2020年の実用化を目指しているが、課題は多い。地中封入したCO2が他の地層や海に漏れて環境に悪影響を与えないことを確かめる必要がある。加えて現状では、事業者に設備建設のための巨額な費用を負担するメリットがない。財政支援や、CO2排出に罰金を科すなどの政策的措置が不可欠になるが、いずれも今すぐ取り入れることは困難だ。
一方で、報告書は「30年までの対策遅れは30年以降の対策費を約1・4倍に膨らませる」と迅速な対応を求めた。当面は再生可能エネルギーの規模拡大や大幅な省エネが必要だ。エネルギー政策に詳しい藤野純一・国立環境研究所主任研究員は「低炭素社会へ人々の生活や行動を変える仕組みを作ることが、地道だが近道ではないか」と指摘する。【阿部周一】