ワールドシリーズは第7戦までもつれ込んで、手に汗握る展開となった。視聴率を調査するニールセン社によれば、平均でおよそ2350万世帯が、サンフランシスコ・ジャイアンツがカンザスシティー・ロイヤルズを破った第7戦を見たという。この数字は、第6戦までを1000万世帯ほど上回るものだったから、ニューヨークに本部があるMLB機構の幹部はホッと胸をなで下ろしたはずだ。
昨季、ボストン・レッドソックスがセントルイス・カージナルスを第6戦で退けたゲームは1490万世帯だったから、それだけ今回、野球ファンが雌雄を決する第7戦には興味があったということになる。しかも、ワールドシリーズMVPに輝いたマディソン・バムガーナーが最後の打者を打ち取った瞬間は、2780万世帯がチャンネルを合わせていた。
ただ、このシリーズは最初から盛り上がりを見せていたわけではない。29年ぶりの世界一を目指すとはいえ、カンザスシティーは小規模マーケット。第7戦の地元のチャンネル占有率は77%と驚異的な数字で、2月に開催されたソチ五輪以来の興味だった。しかし、マーケットの規模では、ジャイアンツのあるサンフランシスコとは比べ物にならない。当然、「全米」という視点で興味を引くには、シリーズ全体の内容だけが頼りだった。 その証拠に、シリーズ平均は1380万世帯。これは、2012年にジャイアンツがデトロイト・タイガースに4タテで世界一になったシリーズに次ぐ低い数字だった。しかも、終盤の第6戦が1340万世帯と、今シリーズの平均をも下回った。MLBの関係者は内心穏やかではない心境だったはずだ。それが、第7戦までもつれる展開になって、ようやく「全米」的な興味につながった。
しかし、だからと言って、野球人気の低下は止まっていない。今世紀になって実施されたワールドシリーズ第7戦は毎年のように3000万世帯以上が注目していたのだから、それを今回も超えられなかった厳しい現実がある。
過去を振り返れば、1991年、ミネソタ・ツインズがアトランタ・ブレーブスを撃破した第7戦は5030万世帯が目撃者となった事実がある。この時は、ワールドシリーズ史上初となる前年最下位チーム同士の対戦であり、シリーズ7戦中、サヨナラゲームが4試合とあまりにも劇的なシリーズだった。
MLB機構も黙っているわけではなかった。プロフットボールのNFLなど、ライバルのスポーツコンテンツは「時間制」であり、番組編成や広告収入でも非常に魅力的な存在となっている。そこで、長く議論されてきた「試合時間短縮」に着手し、アリゾナ秋季リーグで実験的適用を行った。例えば、投手が投球動作に入るまでの時間は20秒に制限し、それを超えるとボールがコールされる。さらに、イニング間は2分5秒以内に開始され、監督や投手コーチがマウンドへ行くのは1試合3度に制限、敬遠を与える場合は球を投げないなどが決められた。この結果、実戦テストで試合時間は2時間14分となり、今季のメジャーの平均試合時間3時間8分から54分も短縮された。
視聴者から魅力あるコンテンツとして選ばれるために、やることはすべてやる。この危機をどんな戦略で乗り越えるか、MLB機構の次の一手からも目が離せない。
1968年7月7日生。立教大学法学部法学科卒業。在学中は体育会硬式野球部に所属し、神宮で活躍。その後、NY市立大学大学院修士課程スポーツ経営学科修了。“アメリカ発の視点”に立ち、球団関係者や代理人などと独自の人脈や情報網を確立し、これまで2千試合以上を取材したメジャーリー グ取材の第一人者。株式会社マスターズスポーツマネジメント代表取締役、アマチュアプレーヤー向け「サムライベースボール」発行人。立教大学講師。著書に「無敗の男―田中将大~「強さ」をつくった師の流儀」(大和書房)、「松井秀喜~献身力」(大和書房)、「イチローVS松井秀喜」(小学館新書)など。公式ブログは、http://ameblo.jp/msmatnyc/。公式ツイッタ―アカウント「MSMATNYC」。