「京都vs.奈良」ルート 関西早期開業で新局面
さらに軌を一にするかのように、政権与党もにわかに動き出した。
自民党の「超電導リニア鉄道に関する特別委員会」は、4月に「関西同時開業」の案を決議。併せて、3兆6000億円とされる名古屋─大阪間の工事費について、国が資金支援する案をブチ上げた。国の負担で線路や駅を建設、JR東海に譲渡し、JR東海は元本のみを分割返済するスキームだ。法律の枠組みは今後検討されるが、ペーパーには国による無利子貸し付け、鉄道・運輸機構による財投機関債発行などが挙がっている。「所要の税制措置を講ずる」とも記してある。
意思決定者のJR東海としては、総額9兆円を超える工事費用の負担に、民間企業1社では耐えがたい。名古屋・大阪の2段階にすることによってピーク時も有利子負債を5兆円以下に抑え、健全経営・安定配当を維持するのが基本方針だ。それでも国の支援によって、数百億円もの「利子負担がなくなる意味は大きい」(JR東海役員)。
特別委員会の竹本直一委員長(衆院比例近畿ブロック)は「安倍政権にとって、リニアは究極の成長戦略だ。法案は今秋にも予定される臨時国会か、15年の通常国会で通したい」と息巻く。環境アセスメントの期間などを考慮すると、同時開業は難しくとも、想定よりかなり早い開業が計算上では成り立つ。
少なくとも関西では、同時開業の要求で一致しており、仕切り直しになりかねない京都ルートの提案は、旗色が悪い。『デフレの正体』著者で鉄道に詳しい藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員は「アジアが急成長する今、(アジアに近い)大阪に経済の重心を移すべき。日本全体への経済効果も大きい」と見通す。
京都と奈良がもめている間に、思わぬ自民党の提案で新局面を迎えた、リニアの名古屋以西ルート。関西早期開業を最優先に、これから各方面の動きが本格化しそうだ。
<INTERVIEW 京都vs.奈良>
【経済効果をきっちり検証すべきだ】
京都市長●門川大作
私どもは地域間の足の引っ張り合いをしているのではない。名古屋以西については、日本の未来のために適切なルートを決定するべき、と主張しているのだ。経済効果などを、きっちり検証しなければならない。京都ルートの経済波及効果は、奈良ルートの2倍で、乗客数は4倍ある。
京都駅では、既存の鉄道ネットワーク(JR東海道新幹線や山陰本線、北陸本線、近鉄など)とつながっており、乗り継ぎの利便性が高い。京都駅を通ることで広いエリアの方々がリニアの効果を享受できる。多くの需要も生まれるだろう。