「京都vs.奈良」ルート 関西早期開業で新局面


(更新 2014/5/27 14:00)

京都市長 門川大作氏

京都市長 門川大作氏

奈良市長 仲川げん氏

奈良市長 仲川げん氏

週刊 東洋経済 2014年 5/31号

東洋経済新報社
定価:690円(税込)

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 リニアの名古屋以西ルートをめぐり、激しく対立してきた京都府と奈良県。が、名古屋─大阪間の同時開業を求める大阪の意向が強まったことを背景に、ここにきて前進する可能性が出てきた。

 事業主体のJR東海は、東京─名古屋間の開業から18年後の2045年に、名古屋─大阪間の完成を目指す。ただルートについては詳細を明確にしていないために議論が白熱。国の1973年の基本計画で、11年の整備計画でも「奈良市付近」を通ると明記されたが、京都はこれに異を唱える。「地域への影響や経済効果を検証できていない」。京都の門川大作市長は、整備計画で議論が十分でなかったと疑問を呈する。

 「京都ルートの経済波及効果は年810億円と奈良ルートの2倍。首都圏からの乗客数は年1200万人と4倍」と京都は経済優位性を強調する。京都駅は東海道新幹線や近畿日本鉄道(近鉄)と連結し、同駅にリニアが通れば顧客利便性も高まると、アピールしているわけだ。

 実は京都には鉄道網の決定事項を土壇場でひっくり返した過去がある。約50年前、東海道新幹線は市街地への影響が大きいことから、より奈良に近い府の南方面を通ると決まっていた。しかし京都市が国鉄への陳情を重ね、開業間近に現在の京都駅の着工を実現。リニアでもこの"逆転劇"の再現を目指す。

 一方の奈良も黙っていない。奈良市の仲川げん市長は「国の整備計画では奈良ルートが決まっている。あらためて言うまでもない、というのが地域住民の感覚だ」と言い切る。

 「奈良は3時間ほど観光すれば十分」。海外のガイドブックにはこのような記載があるという。奈良は京都以上に古い歴史を持ち、東大寺や法隆寺など観光資源があるにもかかわらず、交通が不便で宿泊施設も十分でないため、時間をかけて周遊する観光客が少ない。世界遺産の吉野山をはじめ、県南部まで足を延ばすケースはまれだ。

 新幹線開業を機に、着実に伸ばしてきた京都の観光客数は、今や年7000万人。奈良は半分の年3400万人でしかない。それだけにリニア開業には並々ならぬ期待を寄せる。「観光客が現状より年1000万人増え、県内需要も330億円増加する」と奈良側は試算する。

●JR東海を揺さぶる無利子補給のスキーム

 激化する古都バトルだが、大阪府など他府県は冷ややかだ。関西経済連合会の森詳介会長は4月の会見で、「奈良市付近を経由する計画が決定された経緯を踏まえ、早く関西の考え方をまとめるべき」と、京都ルートは難しいとの認識を示した。

 大阪としては「全線開業の時期を東京─名古屋と同じ27年に」というのが本心。リニア建設が名古屋までで停まる18年間に、関西圏が地盤沈下する懸念があるので、ルート問題を収束させ“オール関西”で同時開業を要望しよう、と絵を描く。


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