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メルケルに突き放されたキャメロン 英国の「EU離脱」ゲームにドイツが最後通牒

欧州連合(EU)から離脱するぞ、離脱するぞと脅しながら残留条件を釣り上げようとするキャメロン英首相に、ついにメルケル独首相の堪忍袋の緒が切れた。

独誌シュピーゲルは、独連邦首相府や外務省筋の話として、キャメロン首相がEU域内からの移民制限(クォータ)をEUとの交渉の俎上に上げるようなら、メルケル首相は英国のEU離脱を受け入れるだろうと報じた。

労働党のブレア前首相から「自分でこめかみに銃を突きつけながら『言うことを聞かなければ撃つぞ、撃つぞ』と脅す間抜けな西部劇のカウボーイ」にたとえられたこともあるキャメロン首相。

このところEUからの奇襲に同首相は泡を食っている。EU が新しい計算方式で計算し直した結果、単一通貨ユーロ圏に比べて経済が好調な英国は約 17 億ポンド(約3090 億円)の追加負担金を12月1日までに支払うよう要求された。

来年5月の総選挙が迫る中、キャメロン首相の保守党は、EU離脱を党是に掲げる英国独立党(UKIP)に保守層を食い荒らされている。EUに弱腰を見せたら保守層の離反が進み、保守党内でも勢いを増す欧州懐疑派に足元をすくわれる恐れがある。

キャメロン首相は激怒して徹底抗戦する構えを見せた。次期総選挙で保守党が政権を維持した場合、2017年末までに国民投票を実施する。それに向けたEUとの交渉内容をクリスマス前に表明するとぶち上げた。

キャメロン首相は離脱を覚悟の上でEUと交渉すると強気の姿勢を貫いてきたが、EUのバローゾ前欧州委員長はロンドンにあるシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で講演した際、「これまでキャメロン首相の口から英国の要求を聞かされたことがない」と打ち明けた。P1090467 (640x480)

バローゾ前欧州委員長(筆者撮影)

 その矢先、ドイツサイドから「移民制限を交渉に持ちだしたら、ドイツは英国のEU離脱を引き止めない」というメルケル首相の最後通牒がシュピーゲル誌にリークされた。

メルケル首相は手の内を最後の最後まで明かさないことで有名だ。しかし、債務危機ではようやくまとまったEUや国際通貨基金(IMF)の救済策を受け入れるかどうか国民投票にかけると言い出したギリシャのパパンドレウ首相(当時)を「ユーロに留まるか、離脱するかよ」と一喝して、撤回に追い込んだ。

今度もそのときの対応に似ている。メルケル首相にとって、英国のキャメロン首相もギリシャのパパンドレウ元首相も今や同じぐらい軽い存在と言って良いだろう。いつまでも「EUのママ」は聞き分けのない子供のわがままには付き合っていられないというわけだ。

シュピーゲル誌などの報道では、10月25日のEU首脳会議で、メルケル首相はキャメロン首相から移民の数を減らすために英国はリスボン条約改正を提案するかもしれないと打ち明けられた。

キャメロン首相は「上限」や「クォーター制」、または「非常ブレーキ」を示唆したが、メルケル首相は「ドイツは移動の自由というEUの大原則を支持している。それを揺るがせにするつもりはない」と一蹴した。

人の自由移動はEUの精神だ。英国が離脱をちらつかせながら人の自由移動を交渉のテーブルに載せようとした場合は、英国のEU離脱を引き止めないとメルケル首相は突き放したようだ。

EU首脳会議後の記者会見で、メルケル首相は「EU域内の人の自由移動は制限しないが、失業手当など社会保障の乱用は解消されなければならない」と発言。EU司法裁判所で取り扱われた移民労働者の社会保険の事例に言及した。

キャメロン首相は英国の移民増を毎年10万人以内に抑える方針を掲げてきたが、目標達成は不可能なのが現状だ。それどころか前労働党政権下の2009年に社会保険番号を持っているEUからの移民は28万5千人だったのに、今年は42万人に膨れ上がっている。

景気後退入りし、デフレが目前に迫ってきたユーロ圏に対して、英国経済は絶好調。放っておくと移民が急増する恐れがある。

ユーロを欧州統合の柱に位置づけるメルケル首相と、欧州統合は単一市場で十分とするキャメロン首相はこれまで何度も対立。債務危機の最中、ユーロ圏の重債務国の国債を売り浴びせる英国の金融街シティーを擁する英国をメルケル首相は忌々しく思ってきた。

バローゾ前欧州委員長の後任人事をめぐっても、欧州統合推進派のユンケル前ルクセンブルク首相を推すメルケル首相にキャメロン首相は反旗を翻していた。

来年5月の総選挙をにらんでEUをダシに国内の政治ゲームを展開するキャメロン首相にメルケル首相は「もう、お遊びはおしまい。この一線を超えたらEUから出て行ってもらう」と通告した格好だ。

英国とEUの統合を天秤にはかけられない。EUのルールが守られない英国には用はないというわけだ。で、すぐに英国のEU離脱につながるかと言えば、そうはならないだろう。

移民労働者の「社会保障タダ乗り」は英国だけでなくEU主要国すべてが頭を抱える問題だからだ。

(おわり)

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