世界の「隠された知識」を得れば一見不可能な事でも可能になるのではないか? 表面的に見たのではわからない世界の秘密を見いだす事ができるのではないか?と考える事もできます。ヘルメス学(錬金術,魔術,占星術など)の第一原理は実際にこのような事が可能であるというものです。

それでは錬金術,魔術,占星術は同じ事をやっているのか?と言う疑問が出てきます。上で言っている世界の秘密とは基本的には皆同じ根源を持つものなのですが,占星術は主に天上界についての「隠された秘密」を,見いだし,魔術は主に人間界での「隠された秘密」を探り,そして錬金術は主に物質界そして精神界での「隠された秘密」を探ると言ってもいいでしょう。

もちろんこれらはお互いに密接に関係しており厳密に区別できない部分があるのは言うまでもありません。
錬金術で言う「物質界」とは科学的な物質とは意味が違います。錬金術では「物質」と「精神」を2つの両極と考えこの世に存在するものはこの両極の間に位置し,その間を移動すると考えます。すなわち「物質」が存在するためにはなんらかの「精神」的なものが必要であり,また「精神」は「物質」的な支えが必要という具合のこの両者は本質としては同じと見なします。

さて錬金術の「教義」をひと言で言えば

「物質を始め,この世に存在するものは唯一神を起源とする世界霊魂(アニマ・ムンディ)によって存在しかつ動かされている。神が世界霊魂に物質という衣を与える事により世界は物質化した世界霊魂の集合体となる。すなわちすべての被創造物は多様な形をとっていても,本質は唯一つである。それゆえ天上界と地上界には本質的な差はなく同じ仕組みでできている。神が世界創造で行った事と同じ原理を実験室で−規模ははるかに小規模でも−実現しようすとするのが錬金術である。そして神が創造した世界の原理を肌で感じ,理解する事が目的である。
現代科学が自然を理解し認識するのは自然を利用し,支配するためであるが錬金術では認識し自然を超越して神に近づくために実験を利用する。」


ヘルメス学では万物は土,空気,水,火という4元素により構成されるとされ,物質と精神の間のあらゆる状態はこの4つによって表す事ができます。
ただし土は固体を,水は液体を,空気は気体を,火は物質を変成させるエネルギ−をそれぞれ象徴的に表しています。
(古典魔術ではこの4つは4大精霊として土の精霊「グノ−ム」,空気の精霊「シルフ」,水の精霊「ウンディ−ネ」,火の精霊「サラマンドル」と表されます)

ここに第5元素である「エ−テル」が加わります。これは物質本来の姿でありこれに4つの特性(熱,冷,乾,湿)のうちの2つが加わり4元素が生じると考えられました。
(火=(熱,乾),空気=(熱,湿),土=(冷,乾),水=(冷,湿)の4種類です)
この組み合わせを変える事により物質の「変成」が起きます(たとえば空気から湿という特性を取り除くと火になります)。

さらに錬金術では物質の内在的特性により金属を(4元素と同じく象徴的に)銀,水銀,銅,金,鉄,錫,鉛という7つに分類します。そして「下にあるものは上にあるもののごとく,上にあるものは下にあるもののごとし」という考え方から天体と結び付けられ

月=銀,水星=水銀,金星=銅,太陽=金,火星=鉄,木星=錫,土星=鉛

とされそれぞれに対応があるとされました。これから占星術と錬金術の密接な関係が生まれてきます。
物質は本来すべて同じ起源を持つのであるがそれが異なる物質として現れるのは4元素がそれぞれ異なる配合で現れるからであり,天から地上へ降りてくる世界霊魂の活動がその時々の天体の配列によって調整されるからと考えられます。また錬金術では金属は大地の胎内(地中)で世界霊魂によって育まれる第一の産物であると考えられました。

また「世界霊魂」は万物に命を吹き込み,状態を維持し,また物質を変成させる第一原因であると同時に,すべての病を治す働きもあります。

すなわち「世界霊魂」を手に入れれば自由自在に物質の変成ができる(卑金属を金に変えるのはその一例にすぎません)のみならず病気を治し永遠の命すら手に入れる事ができるわけです。

したがって錬金術の最大のテ−マはこの「世界霊魂」を手に入れる方法になるわけです。この世界霊魂が極度に純粋になると「石」の形をとると言われこれを「賢者の石」と呼びました。すなわち錬金術とは「賢者の石」を捜す(または作り出す)実践の道を言えるわけです。
「賢者の石」は別名「エリクシ−ル(錬金霊薬)」,「ティンクトウラ(染色液)」とも呼ばれ
ます。

Pandara_Vasini

4.錬金術の教義