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ありのままでと娘の決断−87歳認知症の母、徘徊の自由で戻った笑顔

Bloomberg 11月4日(火)7時56分配信

  11月4日(ブルームバーグ):酒井アサヨさんは大阪市内のマンションで玄関ドアをドンドンと両手のこぶしでたたき、外に出たいと一日中わめく。どうしてそこにいるのか、本人の記憶は定かでない。認知症を患っているので忘れてしまう。

87歳になったアサヨさんと同居する娘の章子さん(55)が5年ほど前の出来事を振り返る。行く手を阻む章子さんをたたき、かみつき、暴れて抵抗するアサヨさん。こんな光景が日常茶飯事となっていた。疲れ果てた章子さんはその日、玄関のドアを開け、アサヨさんを会社員でごった返す大阪のビジネス街、北浜に解き放った。「出るのであれば出ていけ」。

「叫んでわめき、かみつく悪魔のような母に、私の人生は終わったと思った」と章子さんは言う。行き着くところまで行き着いて、どうすることもできなくなった果ての決断だった。しかしこの後2人には思いもかけない物語が待っていた。

親や配偶者を介護する人は増え続け、章子さんのように精神的に追い込まれている人も少なくない。警察庁のまとめによると、昨年は「認知症または認知症の疑い」による行方不明者が1万人を超えた。何年も行方不明になって発見される人もいれば、死亡していることもあるし、介護者が高齢者を虐待し殺害に至るケースもある。

通帳を破る

厚生労働省の調べによると、12年には27人の高齢者が介護者によって殺害されたり、介護放棄されたりして死亡した。同年の高齢者虐待件数は06年に比べ2割増え1万5000件を超えた。うちの半数は認知症を患っていた。

元看護師で結婚後は専業主婦だったアサヨさんは奈良県大和郡山市に住んでいて、今から10年近く前に認知症と診断された。その6年前に夫がすい臓がんで亡くなってからは落ち込み、上手だった料理もやめて出来合いののり巻やお好み焼きを買って食べる日々になった。頬骨が出るほどやせ細った。認知症と診断されたとの電話を地元の高齢者サポートセンターから受けたとき、章子さんはパニックに陥り、6年間やめていたたばこにも手を出した。

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最終更新:11月4日(火)11時55分

Bloomberg

 

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