内科医・酒井健司の医心電信

「全国市長会、国による子ども医療無償化を提言」( http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE24002_U4A021C1PP8000/ )というニュースがありました。現在でも、独自に子どもの医療費の自己負担を無料にしている自治体があります。それを国が全国一律に実施するよう求める提言を、全国市長会がまとめたのだそうです。

子ども医療無償化のメリットは目に見えてはっきりしています。子育て家庭の家計は助かるでしょう。お金のことを心配して受診をためらい手遅れになる、なんてこともなくなります。少子化の対策にもなるでしょう。子ども医療無償化のメリットは明確なため、地方選挙で政策として挙げる候補者がよくいます。

では、デメリットはあるでしょうか。医療費の自己負担を無料にすると決めても、何もないところからお金が出てくるわけではありません。税金などで補てんしているのです。

しかも、医療費無償化で補てんする金額は、それまでの自己負担分に留まりません。自己負担を無料にすると受診のハードルが下がります。早目の受診で手遅れが減るかもしれませんが、必要性の乏しい受診は確実に増えます。よって総医療費は増えます。

子ども医療無償化のデメリットは総医療費の問題だけではありません。受診する患者さんが増えると待ち時間も増えます。また、医師の負担も増えます。「症状は軽いけれども、無料だし念のために受診した」という患者さんに手間を取られて、重症の患者さんへの対応が遅れてしまう、なんてこともないとは言えません。

子育て家庭への経済的支援や受診のハードルを下げることによる早期受診というメリットと、総医療費の増加や待ち時間の延長や医師の仕事量の増加というデメリットを比較して、子ども医療を無償化するかどうかを決めるべきだと思います。

各自治体によってそれぞれ状況が異なるでしょう。たとえば、小児科医がたくさんいて比較的余裕がある自治体や、必要性の乏しい受診行動を起こす住民が少ない自治体では、子ども医療無償化のメリットが大きくなります。

一方で、小児科医が不足気味の自治体であれば、子ども医療無償化に税金を使って小児科医をさらに疲弊させるよりも、小児科医を増やすために税金を使うほうが、メリットが大きいでしょう。住民にとっても、さんざん待たされた挙句に疲れ切った小児科医に診てもらうよりも、自己負担分を支払っても元気な小児科医に診てもらったほうがいいと思います。

単なる無償化ではなく、一定の金額を超えたらその分だけ還付するとか、外来は有償だけど入院は無償化にする、などの方法だと受診の増加を抑えることができます。また、一律に無償化するのではなく所得制限をつけるというのも一案です。

いずれにせよ、子どもの医療費無償化は、全国一律で実施するのではなく、各自治体できめ細かく対応するほうが望ましいように私には思われます。

酒井健司 (さかい・けんじ)

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務しています。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていないのです。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えて行くのが、このブログの狙いです。

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