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山田厚史の「世界かわら版」

小渕、松島・女性閣僚ダブル辞任で
本当に救われた閣僚は誰か

山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
【第71回】 2014年10月23日
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 「景気対策10兆円」などと威勢のいい政治家は、額を膨らますことが業績と考えている。使い方に興味も関心もないから税金がシロアリの食い物になる。予算を欲しがるのは官僚機構の性だ。前年度末に決まる当初予算は財務省の厳しい査定で削り込まれるが、景気対策を口実に追加される補正予算は大盤振る舞いになりがちだ。政治家が業績を競い合う。省庁は当初予算で削られた事業を、表紙を替えて予算化する。無駄はシロアリの養分で、役所や自治体にぶら下がる外郭団体や天下りポストを増殖させる。中央からの差配する政治家の地元組織は、シロアリにエサを配分することで支配力を高める。

 地方の再生にはカネの額より、カネを使う知恵であり、地元に愛着を持つ人たちの創意工夫が欠かせない。中央から選挙区を見る不在地主には「結局はカネでしょ」という視点しかない。

 カネをつぎ込み、思考停止を誘発し、カネ依存症が政治家の後援会組織を盤石にする。選挙区の培養に熱心な不在地主たちの「もっとカネを」が財政赤字を膨らました。

松島大臣の辞任は国会対策優先

 ウチワを配った松島みどり議員は、小渕氏の対極にいる政治家だ。TBSを辞め、後援会に担がれて政界に出た小渕と違い、松島氏は自民党の候補者公募に受かり、朝日新聞を辞めて東京14区から立候補した。出身は大阪で、なじみも地盤もない東京の下町(両国周辺)で落選・当選を繰り返し閣僚まで這い上がった。

 高校生の頃、今は亡き土井たか子氏の演説を聞き、女性でも立派な政治家になれる、と漠然と思ったのが後に政界に入るきっかけだった、という。東大では初代チアリーダー、朝日新聞では女性の経済記者の草分けとして鉄鋼業界や大蔵省などを担当した。政治記者に転じ、渡辺美智雄氏、石原慎太郎氏、森喜朗氏などの番記者になった。自民党が野党になって初めての候補者の公募に第一号として採用された。好き嫌いはあろうが、松島氏は女性として道なきところに道を開いてきた個性派である。親に頼ることなく、落下傘で異郷に降り、何の保証もない政治活動に取り組んだ。

 突破力や信念はあるが、選挙基盤は盤石ではない。自民党の基礎票では当選できず、浮動票をいかに取り込むかが政治生命になっていた。地元の祭りなどに顔を出し、知名度を高めようと配ったウチワが命取りになった。

 丸い厚紙に指を入れる穴が開いたウチワは「ウチワにも使えるビラ」と認定されてきたが、軸や骨がつくと「政治情報が掛かれたウチワ」とされ公選法違反(有価物の寄付)になる、という見方がある。

 社会通念に照らせば軽微な問題だ。小渕氏の会計問題と一括りに処理されたことについて本人は不満だろうが、攻撃材料を少しでも減らしたい安倍政権にとって「ダブル辞任」が国会を乗り切る最善の策と考えたのだろう。

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山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。

 


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元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

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