でも、顔を反らしながらも目をキラキラさせていた。これまで知らなかった速さで風景が通り過ぎていくのが新鮮だったんだろう。
ここ一、二ヶ月、土日のどちらか、もしくは両日奥さんに用事があって、僕が一日娘の面倒を見ていることが多かった。
だから休日を自分のために過ごすことがほとんどない。寝る前に少し本を読むか、ジムに行っているくらいだ。あとは娘の世話か、家事をしている。
そんなこともあって、ここしばらくは自分自身が停滞してしまっている、世の中から取り残されていくように感じていた。知らず知らずのうちにストレスが溜まっていたようだ。奥さんともケンカをしてしまった。
そんな今日、娘と自転車に乗っている時にふと「俺はいつかこの瞬間を思い出すのだろう」と思った。
きっとそれはその時間だけではなくて、本当に何気ない、夕暮れの中で抱っこしている時や、だるまさんの絵本を読んであげている時、離乳食のうどんを食べさせている時、布団に寝かせようとする度に泣いて起きてしまうから真っ暗な中で抱っこして歌を歌っている時、蜜柑を初めて食べて酸っぱさに飛び上がる様子を見て奥さんと一緒に大笑いしている時、そのような一瞬をいつか俺は思い出すのだと、そう思った。
だから今日、グーンと頭を反らす娘を見てすれ違うおばさんがンマーという顔をしていたり、中学生の女の子達が爆笑していたり、娘が目を輝かせて景色を眺めていたことも、いつか思い出す日がくるのだろう。
自転車に乗りながら、今日の彼女は幸せそうな顔をしてくれていた。モヤモヤとした気持ちもなくなっていた。