最近のキプロス、ちょっと前のギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペインに限らず、過去のアジア危機や中南米危機でも国家の過大な債務が重大な問題の原因でした。また、現在でもGDPの2倍に達するとされる日本の公的債務やアメリカの年金債務にも懸念が広がっています。ところが、最近になって「債務問題を一夜にして解決する方法がある」という意見が散見されるようになりました。
「Debt Jubilee(デット・ジュビリー)」で国の借金は霧散する!?
GDP比で日本の公的債務が突出しているとはいえ、ユーロの周辺国やアメリカの債務残高も積み上がる一方で、どうやって解決するのかが各国共通の懸念材料となっています。そこで、最近真顔で語られることが多くなってきたのが「Debt Jubilee」(債務免除または徳政令)という考え方です。
もともとの意味は、旧約聖書に出てくる50年に一度すべての奴隷を解放し、借金を免除するというもので、現在は貧困国への債務免除などで言及されることがあります。欧米ではこれが主要国の債務に応用可能なのではないか、という見方が静かに拡散しつつあります。
例えば、CFA Institute Magazine(March/April)に掲載されている「Time-Bomb Zombie Swans」(John Rubino)では、将来予想されるデリバティブ危機、日本の債務危機、オイルダラーの枯渇による米国債への資金還流停止、米国年金危機などのブラックスワン(確率は低くても発生すると巨大なインパクトがある事象)を指摘した上で、これらに共通の問題が債務にあり、その解決策として「Debt Jubilee」を紹介しています。
具体的には、まず、各国の中央銀行が大量の資金を創出し、それで自国の国債を買い集めます。その結果、中央銀行の資産としては大量の国債、負債としては自分が出した紙幣が積み上がります。中央銀行のお金は、もともと何もないところから魔法のように生み出したものです。そこで、資産と債務を中央銀行が帳消しにしてしまえば、だれにも迷惑をかけることなく国家の債務は霧散するというわけです。
「えっ~。そんなばかな!何かおかしいぞ」と直感的には誰もが思いますが、資産と債務を同時に消すので中央銀行は赤字になりません(いくらでもお金を刷れるので、実は赤字でもどうということはないのですが)。国家はなにもしないで借金が消えますし、国民も投資家も国債を保有していないので損はしません。常識的な経済学にはこの考え方はないので、著名な学者やエコノミストでも、実際のところどういうことが起こるのかよく分らないと思われます。
一方、その威力は桁違いに強烈です。異次元金融緩和を「バズーカ砲」というならDebt Jubileeは「超ウルトラ元気玉」と言ってもよいでしょう。(次ページへ続く)