inserted by FC2 system inserted by FC2 system inserted by FC2 system inserted by FC2 system inserted by FC2 system


寝室に入ると、私はベッドの上に腰を下ろした。
そのまま仰向けになる。そして隣にお姉さんが寝そべった。

「さあ、始めましょうか……」

お姉さんが、懐から何か箱のようなものを取り出した。
それは透明なピルケースだった。中には何か黒いものが入っていた。

カチャリ……

お姉さんはケースを開け、中の黒いものを取り出した。

「ほら、これがアリサちゃんを変えてくれる魔法の種よ?」

「タネ……?」

「そう、タネ……これからこの種が、アリサちゃんの体の中に入るの」
「そうすれば、あなたもお姉さんの仲間になれるわ」

お姉さんが、黒い種を掌に乗せて微笑んでいる。

「ところで、これがアリサちゃんのどこに入るか……分かるかしら?」

「…………」

……私はコクリと頷いた。
この寝室に来たときから、もう覚悟はできている。

「は、はい。お……お願いします」

「そう……アリサちゃんは賢い子ね……」


「フフ……アリサちゃん、そんなに硬くならないでいいのよ?お姉さん馴れてるから、痛くないように種付けしてあげる」
「ビューティーになるってことは、とっても気持ちよくて、素敵なことなの……。だからそんなに緊張しないで、ね……♪」

「は……はい……」

お姉さんは微笑を絶やさない。そして彼女は、掌の種をゴクリと飲み込んでしまった。

「え……?」

驚いた私に、お姉さんはパチリとウインクした。そして、優しい声で囁いた。

「フフッ、アリサちゃんにあげる準備をしているの」
「ほら、後はもう何も見なくていいわ……。安心して、お姉さんに全部任せなさい?」

そう言うと、お姉さんは掌でそっと私の目を塞いだ。……そして、私は闇に覆われた。

……怖くはなかった。
お姉さんの体温を感じる。彼女の掌の温かさが、これから起こることへの不安を溶かしてくれた。

私はお姉さんに体を摺り寄せ、そのままゆったりと体を預けた。お姉さんは片方の手でずっと私の目を覆ってくれている。
お姉さんの息遣いを感じる。温かい闇に包まれながら、私は何ともいえない期待感が、胸の中で少しずつ膨らんでいくのを感じていた。

そして……

お姉さんの手が、スカートの中に入ってきた。

「ん……」

「フフ……大丈夫よ……」

お姉さんが下着に指をかけた。そして、そのままスルスルと脱がされてしまった。

「綺麗よ……アリサちゃん……とっても綺麗」

お姉さんに見られている……。お姉さんの視線が、私のあそこに当たってくる。
……自分でも不思議だった。本当ならこんなこと、恥ずかしくてたまらないはずなのに……視界を封じられた私は、なぜかとても穏やかな気持ちで、お姉さんの掌の闇に身を委ねていた。

「少しほぐしてあげるわね」

「あ……!」

私は小さく呻いた。お姉さんの指が、私のあそこに触れている。

「種はね、ココから入れるのよ?」

「だから少しほぐして、種が入りやすいようにしてあげないといけないわ」

クチュ……クチュ……

「あ……あっ……」

「もう濡れているわね……。フフッ、アリサちゃんたら……こういうコト、ちょっと期待していたのかしら?」

「え……?ち…ちがいます…………あっ……ああぁ……」

「フフッ、恥ずかしがらなくてもいいのよ?種付けには、濡れれば濡れるほど良いんだから」

ク……チュ…………クチュ……クチュ…………

クチュクチュ……クチュ…………クチュクチュクチュ…………

「あっ……あぁ……あん……ぁ……」

「種はアリサちゃんの一番奥に入っていくの……。だから……フフッ、たっぷりほぐしましょうね?」


クチュ………クチュクチュ……クチュクチュ…………クチュクチュクチュクチュ…………

「この種は、アリサちゃんのお腹の中で芽を出すの……」
「生命の始まる場所……赤ちゃんが宿るところで、この変異の種は発芽するのよ?」

「あ……あっ……」
「ゆ……ゆび……入ってくる……あっ……あん……」

クチュクチュクチュクチュ……
クチュクチュ…………クチュ………クチュクチュクチュクチュ…………クチュクチュ……クチュ…………

「フフ……もう十分ほぐれたようね。種の方も、ちょうど準備ができたようだわ」

「じゃあ、これから種を入れるわよ?」
「アリサちゃん、痛かったりするかもしれないけど、すぐ馴れるから少しだけ我慢してね?」

「あ……ん……は…はい……おねえさ…ん……」

……私はそう答えるだけで精一杯だった。
お姉さんの指が止まっても、私は未だ、快楽の微睡みの中にいる。
快感が、お腹の中をぐるぐると渦巻いて意識に絡み付き、私の覚醒を妨げている。

そんな、不明瞭な意識の中で、私はあの黒い種を思い出していた。
「これから、あの種が私の中に入ってくるんだ……不気味な黒色の種子が膣穴をこじ開けて、私の子宮に侵入してくるんだ」
……そう思うと、私は少し不安になった。指だけでこんなに濡れてしまったのに……これから始まることに私は耐えられるだろうか?

「アリサちゃん。これからどんな音が聞こえても、決して眼を開けてはダメよ?」
「お姉さんの掌でちゃんと隠していてあげるから……終わるまでいい子でいるのよ?」

「は…はい……」

……やがて、私の耳元で奇妙な音がした。
それは、濡れた何かがブチュリと裂けるような音だった。

ブチュル……ブチュル……

ヌチュチュッ……ブ…チュゥ……シュルシュルシュルシュルシュル……

おぞましい粘着音。ドパドパと滴る水音。……それはお姉さんの腕が“変わった”という証だった。
男の子の股間を犯したときの、あの異形の変異が……今私の目の前で起こっているのだ。

グチュ……グチュゥゥ………ジュブ……ジュブ…………

「怖がらないでいいからね……大丈夫よ……」

お姉さんの“右腕”から、温かい粘液が私の太股にたぱたぱと零れ落ちた。

「あ……」

粘液は太股、下腹部、おへそ、胸へと滴り落ち……やがて私の一番大切な部分をボタリと濡らした。

「ああぁ……!」

温かい粘液を浴びせられ、私は思わず叫んでしまう。
お姉さんはそのまま粘液を滴らせて、その部分を濡らし続けた。

ボタ……ボタタ……ボタ……ボタッ、ボタッ…………

「あ……あんっ……熱い……あんっ……んんんっ……」

しばらくすると、股間にむずむずと疼きが走るようになった。

「あ……なに…これ……?あぁ……お、おまたが……ジンジンする……」

「十分ね……中の方は、入れながら馴染ませてしまいましょう」
「フフフ……じゃあ、そろそろ種付けを始めるわ……ほら、力を抜いて楽にしなさい?」

「は、はい……」

「フフ……行くわよ……」

お姉さんが耳元で囁いた。そして――

ブチュリ……

触手が私の膣内に入ってきた。

「あ……入ってくる……」

粘液に塗れた触手の先端が、ウネウネと蠢いて、私の内部に侵入してくる。
すると、触手は一旦そこで侵入をやめ、しばらく膣の入り口でのたくるような動きを続けていた。

「あぁ……んっ……んっ……」

やがて触手の動きが止まった。私の膣口に、僅かに先端を埋没させたまま、お姉さんの触手は不気味な沈黙を続けていた。
そのとき、私は理解した。そうか、だから触手は止まったんだ……。触手の先にあるもの……それは……。

私はギュッっと眼を瞑った。そして、そのときが来た――

「……!!」

お腹の中から、プツリと音がした。

……処女膜が避けたのだ。
そして触手は小さな裂け目をミリミリと引き裂いて、一気に貫いた……!

「あ……あああぁぁぁぁっ……!!」

私は絶叫した。滑る触手が肉を裂き、狭い膣肉を押し開いて、侵入してくる!
……だが、私の悲鳴を聞いても、触手が止まることはなかった。


滑った肉の塊が、私の純潔を奪っていく。
私の中の、まだ誰も入ってきたのことのない場所を、お姉さんが蹂躙していく。

「ああぁぁっ………は、はいってくる………あああっ…!!!」

温かいものが、頬を伝っていくのが分かる。
それでも、私はやめてとは言わなかった。お兄ちゃんの顔を思い出し、必死に、体内に入ってきた異物を受け入れようとした。

「アリサちゃん……お兄さんのことを考えてるのね……」

お姉さんの声が聞こえる。

「痛いでしょう?ごめんね……でも、もうすぐよ……?」

「あっ、…あ…あ……あっ……」

ドパッ……ドパ……ドパ……

突然お腹の奥に、温かいものが吐き出された。

私は挿入前にお腹の上に垂らされたものを思い出した。
これはさっきのあの粘液だ。肉茎の先端からまたあの粘液が染み出しているのだ。


「もうすぐだからね……?ほら、もうすぐ中に“粘液が馴染む”から……」

「あっ、あっ……」

「フフ……もうすぐよ……?もうすぐ楽ニ……ナレルカラネ……」

そのとき聞こえたのは、いつものお姉さんの声ではなかった。
自分が今、人間じゃないものに犯されているということを改めて感じた。

そして自分もまた、彼女のようになるんだ……と思った。
そう思うと……ゾクゾクとしたものが体中を駆け巡った。すると徐々に私の中が広がって、お姉さんを自分から受け入れ始めた。
何もしていないのに私の膣壁が広がり、ウネウネと動きはじめる。お姉さんの触手を奥へ奥へと受け入れて、その先にある子宮へと導いていく。

「あら……?フフッ、アリサちゃんたら……」

「あっ……あっ……おねえさ……ん……」

「フフッ、可愛い子……粘液が効いてきたみたいね」
「ほら……もう少しで、種が入るところまでいけるからね……」

「お……姉さん……!あっ…あっ………すご……い……!」

「フフフ……可愛いわぁ……♪女の子に種付けするのは、これだからやめられないのよね……♪」


私は力を抜いてお姉さんに身を委ね、膣内に沈み込む触手を受け入れ続けた。
そんな私を労わるかのように、お姉さんの触手は優しく膣襞をかき分けて、ゆっくりと奥へ進んでくれている。

私は嬉しくなった。そして、そんなお姉さんの優しさににますます心を蕩かせた。

やがて――

「あ……」

その瞬間……私は口を開け、舌を突き出し放心した。

「あ……ひ…………あっ……あっ……!」

お姉さんの触手が“馴染んだ”という実感があった。
……頭の中が蕩けていく。気持ちいい。

「あんっ……あんっ……んんっ……あぁ…ん……あぁ……!」

気持ちいい……!うねる肉茎が粘膜を押し上げるたびに、稲妻のような快感が全身を貫いた。

「すごく可愛いわよ?アリサちゃん……。フフ……とっても素敵……♪」

「あぁ……ああぁ……♪」

気付くと私は、だらしなく涎を垂れ流しながら、何かを叫んでいた。
私の意識は、裸のまま、創造を遥かに超える世界に投げ出された。

「あぁ……あっ……おねえ……さぁ……ん」

「こ……これしゅきぃぃ……ああ……もっろ……もっろしへぇぇ……?」

悦びの濁流に呑みこまれながら、私はあられもない言葉を垂れ流していた。
滴り落ちた涎が、胸の辺りにまで流れていっているのが分かる。視界を覆う指の隙間からチラチラとしたものが見えた。
それはお姉さんの触手だった。……もう眼を瞑ることすら忘れていた。

「フフ……長かったわね。やっと届いたわ……」
「ほら、子宮の入り口に、お姉さんの触手が当たっているのが分かるでしょう?」

「あぁ……あ……」

「ほぉら……感じるでしょう?触手の先端が、アリサちゃんの子宮にピッタリとくっついているわ」
「フフ……この触手の先から、種が出てくるのよ?女の子をビューティーに変える魔法の種が、ここから送りだされるの……」

「ああぁ……分かりま…す……」
「お姉さんの……アリサの奥に……当たってるぅぅ……」

触手の先端が、子宮の入り口に当たっているのが分かる……。
お姉さんの異形の器官が、私の子宮口にピッタリと密着して、先端から温かい粘液がトプトプと溢れてくる。

「フフフ……この種が入ると、子宮の中で発芽してアリサちゃんの細胞を侵蝕するの……。そしてあなたは進化するのよ?」

「ああ……お姉さぁん……」
「そ、それ……ちょうだい……?あ…アリサ……しん…か……したい……」

「フフフ……アリサちゃん、欲しいの?この“種”が……」

「あ……ああぁ……!ほし…い……で…す……」

「フフッ、お腹の中に欲しいの……?お姉さんに……種を植えつけられたいの?」

「あうっ……あうぅぅぅッ……!ほ、ほしいです……あ、アリサ欲しい……」

もう、自分でも何を言っているのか良く分からなかった。
ただただ“種が欲しい”という欲求が、体の奥から湧き上がって来て……私はお姉さんにしがみついて、種付けを懇願していた。

「種、欲しいよぅ……あぁっ、お姉さん、アリサに植えつけてっ?」
「アリサ、ビューティーになりたい……しんかして……お兄ちゃんと結ばれたいぃ……!!」

「そう……フフ、そんなに求めてくれるなんて、嬉しいわ」

泣き喚く私を見て、お姉さんが微笑んだ。そして彼女は、私の体を優しく抱きしめてくれた。

「素敵よアリサちゃん……」
「いいわ……じゃあお姉さんに任せなさい?ほぉら、きもちよぉ〜く植えつけてあげるわね……」

「ああぁっ、お姉さぁん……!」

私はガクガクと体を震わせた。
来る……種が来る……。私……このままお姉さんに抱かれながら…………!

「フフッ……アリサちゃん、もう果てていいのよ?」

「イクのと同時に、種を送り込んであげるわ。アリサちゃんの絶頂に合わせて、子宮に植えつけてあげる」

「ああぁ……何か来る……。来ちゃう……あっ、あっ……あぁっ……!」

「フフ、いいのよ……?ほぉらアリサちゃん、イッちゃいなさい……?」

お姉さんの触手が、奥へとねじ込まれた。
触手の細長い先端が、小さな子宮口を押し広げて、私の胎内ににゅるりと侵入した……。

「ア……アアアアアアアアーーーーーーッ!!!」

私は絶叫した……。手足をピンと伸び、体が仰け反る。そして、襲い来る巨大な絶頂感に呑み込まれた。
全身がビクビクと痙攣し、お姉さんとの結合部分から愛液が噴出した。……次の瞬間、体の奥でドクンと音がした。

「アアッ!!!」

ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……

お腹の中に、温かいものが広がっていく……。
目の前が真っ白になっていく。私が、心地良い霧の中に溶けていく。

ドクンドクン……ドクン……ドクン……

ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドク…ン……ドク……ン……ド……クン…………

「ア……ア…………ァ……」

心地いい……溶ける……。
変わっていくのが、分かる。体の奥から私が……私じゃないものに侵蝕されていく。

ドクン……ド……クン……ドク………ン………ド………ク…………ン…………

混じり合う。溶ケル……。体の中が別のモノに置き換わっていく。
お姉さんの黒い種が、瑞々しい力となって、私の体に染み渡っていく……。

私が生まれ変わる……。
変わっていく……私は、もう私ではない……。わたしは……ワタシハ……。

白い、全てが白い……。白い闇が私を呑みこもうとしている。
やがて、私の感じられる世界の全てが白に染まり、私自身もその白色の中で溶解した。
意識がふわりと溶けてなくなる瞬間……お姉さんの声が聞こえた。


「おめでとう、アリサちゃん」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



バスルームから彼女が出てきた。

「気分はいかがかしら?」

「あ……はい……もう落ち着きました」
「気分はいいです……すごく……いいです……」

「そう……それは良かったわね……」

彼女の着ていた制服は、所々、粘液で濡れてしまった。
だから着替えを用意したのだが、彼女はそのまま着替えずに制服を着て出てきてしまった。

「制服、大丈夫だったの?洗ってあげるから、着替えてきていいのよ?」

「いいえ、そんなに汚れていませんでしたから、大丈夫です。このまま帰れます」

「そう……」

私は彼女の制服を見る。それは驚くほど綺麗だった。
“そんなに汚れていない”どころではない……彼女の制服にはシミ一つついていなかった。……どう見てもクリーニングしたての制服だった。

「…………」

「フフ……面白いわね……」



エントランスを出ると、外はもう暗くなっていた。
しとしとと、雨が降り出している。

「もう夜だわ。日暮れが短くなったわね」

「はい」

「一人で帰れる?」

「はい。大丈夫です」

「そう……じゃあこれを、持っていきなさい」

私は傘を差し出した。

「…………」

彼女は私の差し出した傘を、暫くの間じっと見つめていた。
が、やがて傘を手に取り、にっこりと微笑んだ。

「ありがとう、お姉さん」

「フフッ、じゃあまたね。また何かあったら、連絡していいのよ」
「アリサちゃんのためなら、お姉さん、いつでも力になってあげるから……♪」


「……はい♪そのときは電話しますね」

「フフッ、待ってるわ。じゃあね……」

彼女は、傘を開き歩き出した。

「あ……アリサちゃん?」

「……はい?」

「フフ、お兄さんにもよろしくね……」

「…………」


「はい」

彼女はペコリと頭を下げた。そして、私に微笑んだ。

「…………」

その透明感のある笑顔を見て、私は密やかな満足感に満たされていた。
変異しても、彼女の純粋さは何も変わらない。むしろ、美しさが増したようにも思える。

汚れを知らず、混じりけのない水のように純粋な……。
そんな彼女の思い。それはきっと、どんなに頑なな理性をも溶かしてしまうことだろう。

「フフ……とっても素敵よ……?アリサちゃん……」


彼女はもう一度私にお辞儀し、歩き出した。
雨に濡れた交差点を渡り、歩道を歩いていく。その小さくなっていく背中を、私はしばらく眺めていた。

「…………」

彼女がどういう変異をしたのかは聞いていない。……だが、それは重要なことではない。
これでまた一人、この街に闇が生まれた。それで十分だ。後は雄を求める異形の本能が彼女を導いてくれるだろう。

その価値を思えば……彼女がどのような変異を遂げ、どういう能力を得たかなどということは、どうでも良いことだ。
それは私の役目ではない。彼女の能力に関しては、きっとこれから、彼女の兄が身を持って“確認”してくれることだろう。

そんなことをぼんやりと思いながら、私はマンションのエントランス前で、彼女の背中を見送り続けた。

すると突然、グオオオオンという爆音が聞こえてきた。

グオオオオン……ウオオオオン……!

しとやかな雨音を切り裂いて、荒くれたエンジン音が鳴り響いた。
私は思わず眉を顰めた。彼女と紡いだ上質な幸福の余韻が、獣の猛るような音に汚されていく。

……暴走車だ。

「…………」

暴走車は瞬く間に接近し、私の前を通り過ぎた。
その瞬間……、フロントガラス越しにハンドルの握っている男の顔が見えた。

彼は笑っていた。

「…………」

(このような場所で、汚い騒音を撒き散らして……)

(軽薄で粗暴で……ああ、なんて醜いのかしら)

……やはり、彼らは管理されなければならない。
彼らに自由意志など必要ない。私達が管理して精を搾り、家畜としての悦びを与え……彼らを真の幸福へと導いてやらねばならない。

その直後、暴走車は減速することなく交差点に突っ込んだ。
車は交差点を曲がろうとしていた。後輪が滑り、外側に大きく膨らみながらも何とか交差点を曲がりきった。

……私は帰ろうと思った。
そして、エントランスの中へ入ろうとした。

……そのとき、耳を劈くような音がして私は振り返った。

それはさっきの車の急ブレーキの音だった。交差点でも減速しなかった暴走車が、その先の直線で突然ブレーキを踏んだのだ。

私はハッとしてその先を見た。
暴走車の前には、道路を渡っている少女の姿があった。……それはアリサちゃんだった。

……だが、車は止まらなかった。いや、止まれなかった。
無理もない。相当なスピードで暴走していたのだ。加えて、路面は雨で濡れている。

私は走り出した。……だが、もう間に合わなかった。

「……!!」

一瞬の間の後、少女に車が突っ込んだ。

……その瞬間、私は奇妙な光景を見た。
フロントバンパーに激突した彼女の体が、無数の雨粒となって飛散したのだ。……そして彼女は消えた。


私は車の傍まで駆け寄った。……彼女がいない。
あたりを見回しても、どこにも彼女の姿は無い。路上にはクラクションの音だけが木霊している。

車が停止した。
すぐに、男が車から飛び出してきた。彼は時折嗚咽を漏らしながら、錯乱したかのように周囲を見回している。

男は車の前に回った。そして彼女の姿がないと分かると、恐る恐る車の底部を確認した。

「た、たしかに……いま……」

やがて男は、少女の姿がどこにもないということに気付いたようだった。
すると男は呆然とした顔になり、そこに立ち尽くしたまま動かなくなっってしまった。

しとしと……しとしと……

聞こえてくるのは、静かな雨音だけだ。……まだ男は動かない。その肩が小刻みに震えていた。


「お姉さん」


声が聞こえた。私はとっさに振り向いた。……そこには一人の少女が立っていた。

彼女だった――

「……アリサちゃん」

私は彼女を見た。

彼女は微笑していた。穏やかな目をしていた。
痛みを感じている様子はない。体にも、掠り傷一つ見当たらなかった。加えて、服も全く汚れていない。

「ひっ」

男の悲鳴が聞こえた。彼はそのままドチャッっと濡れた路面に尻餅をついた。

「…………」

腰を抜かした男の目の前に、彼女は無言で立っている。


しばらくして、彼女はスッっと視線を落とした。
そこには、潰れた金属のフレームと破けたビニールが無残な姿で転がっている。

彼女は静かに言った。

「傘、ごめんなさい」

「…………」

「……いいえ、構わないわ」

「…………」

それだけを言うと、彼女はまた歩き出した。
雨が、歩く彼女の肩を濡らしていく。私は傘の残骸を拾い始めた。

「うわぁ……!」

男が逃げるように、車に乗り込んだ。
その場でUターンし、交差点へと走り去った。

しとしと、しとしと……

雨は静かに降り続ける。
私は顔を上げ、彼女を見た。雨の中、ゆっくりと遠ざかっていく少女。
傘は無い。雨粒が彼女の肩を濡らし、背中を濡らし、チェックのスカートに染みを作っていく。


だが私はもう心配していなかった。
だって彼女は“もう濡れて”いるから。もう、彼女に傘はいらないのだから……。

私はまたうつむいて、金属の破片を拾い続けた。


……破片を拾い終わった。私は顔を上げ、もう一度彼女を見た。
彼女の肩はもう濡れていなかった。スカートの黒い染みが急速に狭まっていくのが見えた。

「フフフ……綺麗よアリサちゃん。とっても綺麗だわ……」

このまま雨の中を歩く彼女を、ずっと見ていたいと思った。




少女が道路を渡り終わった。
そのまま歩道に入ったところで、ふと、彼女は立ち止まった。……そして、ぽつりと呟いた。




「待っててね、お兄ちゃん」

……彼女は微笑っていた。透き通るような笑顔だった。



To be continued……


前へ  最初へ



inserted by FC2 system