海外を中心に15年以上にわたる精力的な活動を続ける4人組インストゥルメンタルポストロックバンドMONOが、11月5日(水)に7thアルバム『レイズ・オブ・ダークネス』と8thアルバム『ザ・ラスト・ドーン』の2枚の新作を同時リリースする。
envyのボーカルTetsuya Fukagawaをフィーチャーした“The Hands that Holds the Truth”を始めとする全4曲を収録した『レイズ・オブ・ダークネス』では、底の見えない漆黒の闇に沈み落ちていく陰鬱な心象風景に光が差し込む様を生々しく響かせる。この作品がもつ、破壊的なリズムとメタリックでひりついたサウンドはMONO史上最もブラックといえよう。一方、全7曲収録の『ザ・ラスト・ドーン』は、『レイズ・オブ~』の対極の音を鳴らす。メロディーは美しく、どこまでも幻想的なサウンドスケープが広がる。映画のサウンドトラックを思わせるストーリー性の強い構成で、“最後の夜明け”を繊細に描き出した。両者の世界は一見すると相反するように見えるが、実は密接に繋がっていたのだーー。
今回、以前からお互いに熱望していたという経緯もあり、この新作リリースのタイミングで遂にMONOのリーダーTakaakira“Taka”Gotoと、MONOと古くから交流のある盟友BorisのドラマーAtsuoを迎えた初の対談が実現。海外ツアーをいかにしてサヴァイブしてきたかを語るリアルなやりとりや、誰の模倣でもないオリジナルのアートフォームを探求するストイックな姿勢から、彼らが海外で大きな支持を受けている理由が図らずも浮き彫りになる。今回、2枚組ではなく、敢えて別々のリリースに至った経緯もGotoの口から丁寧に語られ、Atsuoからも興味深いアルバム評を聞くことができた。2人の仲の良さもさることながら、お互いに対する深いリスペクトも相まって、終始笑いの絶えない対談となった。
Interview:Takaakira “Taka” Goto(MONO)× Atsuo(Boris)
L:Atsuo(Boris)、R:Takaakira “Taka” Goto(MONO)
Takaakira “Taka” Goto(以下、Taka) 僕、Atsuoくんみたいに気軽に話せる人って少ないんですよ。片手で足りるぐらい。
–––数少ない盟友なんですね。
Atsuo MONOに対してめちゃめちゃシンパシーありますね。世界中でツアーして、音楽で生活してるバンドってすごく少ないんですよ、日本ではね。
Taka 2人とも音楽だけで食っていこうという執着心がすごいんですよ(笑)。だからお互いの大変さも分かる。
–––いつ頃からのお知り合いなんですか?
Taka 最近だよね。名前はもちろん前から知ってたけど。今でもよく覚えてる話があって。まだBorisとそんなに仲良くなかった頃に、envy主催の忘年会があって、色んなバンドが集まったんですよ。その忘年会でAtsuoくんが見せてくれた写真にアイルランドのあるヴェニューに書き残した僕らのマーキングが写ってたんですよ。それで、「あ! 同じ所でやったんですね!」なんて言ったら、「僕らもあそこでやったんですよ。でもね、アイルランドのあの会場に限ってはね、MONOのほうが動員が多かったんですよ」って。「あ、そういうことを言えるんだ!」と思った。だから、Atsuoくんが俺にそういう感じで近寄ってくれたことがすごくいいなと思ったんだよね。だから今があると思う。Borisの話はヨーロッパとかアメリカでも聞いてて。しかも、気づいたら同じチームで働いてたりするんだよね。
Atsuo そうそう。同じツアマネ(ツアーマネージャー)を雇ってたり、エンジニアも同じだったりね。envyとか共通の友達もいるし。
Taka envyもBorisも僕は海外で聴いた。黙ってても周りの人がその話をしてくるんだよね。シカゴでスティーヴ・アルビニとレコーディングした時もBorisの話になったし。
Atsuo 対バンする機会もけっこう多いですよね。このフェスでも一緒、このフェスでも一緒って。去年はオーストラリアで一緒になって、その1ヶ月後ぐらいには富山で一緒に(笑)。
Taka 僕ら、たまたまオーストラリアのフェスで初めて海外でBorisを観た時に「ああ、かっこいい!」って思ったんだよね。「やれ! やれ!」って無条件で応援してる自分がいた。
Atsuo 海外でお互いのショウを観るっていうのはすごい新鮮だった。日本から外に出ると日本人っていう枠組みを取っ払って観ることになるんですよね。なんていうか、また新しい気分で観れたというか。
Taka 気持ちよかったなぁ。
–––その気持ちよさってなんですか?
Taka ベタな感じでいうと、「日本人がんばれ! 食らわしてやれ!」みたいな気持ち。
Atsuo MONOに関してはいつ頃からか同志っていう感覚が強いんですよね。そんなに頻繁に連絡とるわけじゃないけど、生活スタイルとかかなり共通する部分もあるし。
–––言葉を交わさずとも海外で活動する上でどういう苦労が伴うかっていうこともお互いよく分かってるわけですもんね。
Taka 苦労っていうか、冒険家……ドリーマーだよね。音楽以外はやらないってAtsuoくんも決めてるんじゃないかな。僕はずっと決めてる。「死ぬまでこれ以外はしない。そのためならなんでもするよ」って。ミュージシャンなんて曲書いて演奏するだけだもんね。
Atsuo そうですね。
Taka それに伴うものーー例えば、英語覚えたり、インタビューやったり、機材運んだり、お金の計算したりもあるけど、そんなのは覚悟に付随するリスクだから当たり前のようにやっちゃう。
Atsuo 日本だとバンドで食っていくノウハウって確立されてないじゃないですか。そんな中でお互いちゃんとやれてて、海外でお互いのショウを観れたのはすごい良かった。
Taka 僕らはすごい小さいところから始まってるんだけど、Borisはどうやって来たんだろう? って考えると、アメリカで泊まってるホテルとかもなんとなく想像できるわけじゃない? きっとこういう風にやってきたんだろうなって。最初から動員があるわけじゃないし、何の宣伝もないから。
Atsuo ね。Super8とかMotel6みたいな安宿とか、それ以前に友達の家を泊まり歩くカウチサーファー的なこともやりつつ。
Taka 車で寝たりね。でも、バンドマンとしては全部が楽しいの。そういう気持ちも口には出さないけど、Borisとはシェアできてる。
Atsuo いや、でもMONOの方がたくましいですよ。正直、俺は嫌(笑)。そのうち、月にも都市ができて「月でライブやる?」って誘われたら、たぶんTakaさんは行く。俺はそこまでして行きたくない。
Taka 俺はたぶん行きますね(笑)。そのために2ヶ月ぐらいかかる試験があるなら受ける! 絶対行く(笑)! ライブをやれる場所があるならどこへでも。
Atsuo 自分達がツアーに出て辛いなあって感じるのは、感覚の中にまだ日本人なところがあるからなんですよ。トイレが汚いのは嫌だとか。そういう習慣的な部分でストレスを感じちゃって。でも、MONOはかなり取っ払ってると思いますよ。
Taka そういうのはあんまりないですねぇ。
Atsuo オーストラリアの時も楽屋が一緒だったんですけど、Tamakiさんがいきなり着替え出したからね(笑)。「ちょっと席外しますか?」って言っても、「ううん、全然平気」って。たくましいよなあ。
Taka あれ!? 俺たちがおかしいの(笑)? アメリカって、ヘッドライナーがいて、その前に演奏するメインサポートがいて、もうひとつサポートバンドがいて、さらにもうひとつサポートバンドがいて。例えば、4バンド出る場合、4バンド目には楽屋もない。3バンド目になってやっと楽屋に水が置いてあって、ヘッドライナーになるとフルーツからお酒から全部揃ってる。でも、ヨーロッパはそんなことないんだよね。
Atsuo そうですね。
Taka 比較的最初からフルーツとか用意されてる。でも、動員がないのに保証が多くて、一瞬「ヨーロッパっていいな!」って思うんだけど、アメリカほどリアリティがない。
Atsuo ブッキングのシステムが違いますね。
Taka 僕らは、楽屋にフルーツがあるのに客が15人とかしかなかった時に、「フルーツなんていらねえから、客呼んでこい!」ってことが英語で言えなくて、そのために英語の勉強しましたからね(笑)。
Atsuo あはは!
Taka アメリカは実力社会だし、やればやるほど伸びていくからすごくリアリティがある。アメリカツアーの最初の頃ってバーでやってました?
Atsuo やりましたやりました。
Taka マイクもなくて、ステージもない。だけど、バーはバンドに最低50ドルは払ってくれる。ノルマもないし、ガソリン代ぐらいにはなるんですよ。だから、バーの向こうで見てるお客さんをどうやってライブスペースに呼んでくるか、みたいな。そんなことを1年とか2年やったなあ。