サラリーマン:「こころの定年」どう克服?
毎日新聞 2014年11月03日 09時48分(最終更新 11月03日 12時08分)
若いころにがむしゃらに働いたサラリーマンが40歳前後で先が見え始め、組織で働くことの意味に悩み始める。現役サラリーマンで評論家の楠木新さん(60)は、そんな状態を「こころの定年」と名づけ、会社人間だけではない、もう一つの自分を持つことを勧めている。
10月中旬。大阪市中央区のビジネス街にあるビルの一室で、楠木さん主催の「こころの定年研究会」が開かれた。仕事帰りの男女ら約10人が参加した。
「こころの定年」とは、サラリーマン人生の前半戦と後半戦の境目にあたる40歳前後で、働く意味を見失っているような状態を指す。研究会はこれを理解し、克服する方法を考えようとスタートし、今回で52回目。座学もあればグループワークもあり、何度も参加する人も多い。
この日の参加者は、3グループに分かれ「5年後、10年後のイキイキした自分の姿」を書き出した。
「副業を成功させる」「子供たちを教える場を作る」「趣味のブログを多くの読者に読んでもらう」。参加者はそれぞれ、仕事の時とは違う、もう一つの自分の姿を語った。さらに「自分が何をすべきか、分かっておく」「年齢を否定せず動き出すべきだ」など、もう一つの自分になるための方策も次々と挙がった。
大阪市東住吉区の会社員(60)は、出向先でこれまでのやり方が通用しなくなり、こころの定年の状態になったという。「研究会でいろんな価値観に接して刺激され、仕事とは別の自分の立場で、組織の姿を見直した。すると、これまでと違った景色がみえるようになった」と振り返る。
●自らの体験もとに
楠木さんは生命保険会社で人事労務関係の課長を務めるなど、順調なサラリーマン生活を送っていた。しかし、出身地の神戸で阪神大震災に遭遇したことをきっかけに、会社だけで働く意味に疑問を持ち始めた。
仕事は続けていたが、47歳の時の転勤を契機に「もっと出世したい」という気持ちと「誰のために働いているのか分からない」との感情に引き裂かれ、出社できなくなり、うつ状態と診断された。
職場に復帰したものの平社員に降格。何をしていいのか分からない状態の中で、仕事を辞めて別の道を歩んでいる人たちに興味を持ち、片っ端から話を聞きに行った。