某・声優さん「絶対に自分の名前は出さないでください!」
と言われながらも聞いた話
- 未来格差
- 現実に出演料を下げて評価を得ている大御所たち
- “競売”にかけられるアニメの配役
- これはヒドい話ではない
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これは“某・声優さん”から聞いた話。名前とかは出せないんだけど、CMとかナレーションのお仕事をなさってる有名声優さんです。その人から「絶対に自分の名前は出さないでください!」と言われながらも聞いた話なんですけども。
俺、本当に“評価経済”が現実に近づいているなって実感した話なんだ。
2,3年前に、やしきたかじんさんの番組に出演したんだ。関西のローカル番組。で、その番組の出演前アンケートの中に「これからのテレビ業界はどうなると思いますか?」っていう質問があったんだ。
僕はその質問に「今のテレビ業界では有名タレントが莫大なギャラを貰って出演しているけど、それは長くは続かない。どんどん出演料は下がっていって、近い将来には、逆に“テレビに出る人がお金を払って出演する”という形になるでしょう」って答えたんだ。
┃未来格差
僕の言う“近い将来”っていうのは、「この先、5年から15年先の未来では~」って意味。未来予測っていうのは、1年や2年先のことを言うのではなくて。「今現在の趨勢が今後も続くなら、5~15年の間にはこういうふうになるだろう」というふうにやるんだ。
ちなみに、僕が90年代前半に書いたデビュー作『僕達の洗脳社会』(現在、無料で全文公開中)の中で行った、「これからの社会はネットワークの発達によってこうなるだろう」という未来予測は……まあ、自分で言うのもナンだけど、ほぼ当たってるんだよ。
いや、あらゆる思い込みとか“善悪”のようなもの、「こうならなきゃイヤだ!」とか「こうなるのが正しいんだ!」みたいなバイアスを全部取り払って、フラットな目で物事を見て。そこに、抵抗しようのないような大きな歴史的な流れと、「その中で僕達はどういうふうに生きるのがラクなのか?」という視点を組み合わせたら、未来予測っていうのはそんなに難しくないんだ。
例えば、「オリンピックで日本は次々に金メダルを取るに違いない!」みたいな“楽観的な予想”っていうのは人に勇気をくれるんだけど、やっぱり未来予測のようには当たらないんだよね。同様に、“過剰に悲観的な予想”もそうなんだけど。
で、世の中にはそうやって冷静に未来予測が出来る人と、そうじゃない人がいる。この間の格差を僕は“未来格差”って呼んでる。(本当は僕じゃなくて“末っ子のミユキ”っていうFREEexメンバーが考えた言葉なんだけど)この言葉、すごく気に入っててさ。こういう未来格差というものが、これからの時代、人間の生き方を大きく左右すると考えているんだ。
┃現実に出演料を下げて評価を得ている大御所たち
その“未来格差”というのが現れてくるのが、「これからはテレビに出る人がお金を払うようになる」という話の受け取り方。
今のような、芸人さんが莫大なギャラを貰ってテレビに出るという形式は、過去のものになりつつあると僕は考えていて、3年前にそれを話した。大阪のローカル番組で、何を話してもいいと言われたから。だけど、やっぱり“これまでの概念とは全く違う話”っていうのは、あんまり受け入れられなかったんだよね。スルーされちゃった。
ところが、1年か2年前くらいから、いわゆる大御所どころの芸能人達が自分たちのギャラを下げだすっていう事件が連続して起こったんだ。
それは、「出演料が高過ぎると、番組改編期に自分のレギュラー番組を打ち切られやすい。それよりは、レギュラー番組を1つでも多く持って、それによる“影響力”を持っている方がずっと良い」と。つまり、「貨幣経済的な利益(ギャラ)よりも、評価経済的な利益(影響力)を得た方がずっと大きい」というふうな、“あたりまえの判断”をしたから。それで、テレビに出る際のギャラを一斉に下げだしたんだ。
じゃあ、ギャラを下げた分だけその人は損をしたのかというと。結果的にギャラを下げたおかげで、レギュラー番組を減らさずに済んだ。そのおかげで、テレビCMに出たり、地方営業でも客が途絶えなかったりして、その人達は別に貧乏にはならなかったんだ。
┃競売”にかけられるアニメの配役
そうやって、テレビに出る側がこぞってギャラを下げ始めたのが去年ぐらい。で、今年に入ってから聞いて僕がびっくりしたのがこの話。
もうね、一部のアニメーション番組では、主役の声優さんの“枠”が競りに掛けられているらしいんだ。
あるアニメ作品の企画が上がると、そのアニメの主役を誰がつとめるかで、声優事務所が競売をするんだって。それは「その主役の座を各事務所がいくらで買うか?」なんだよ。「うちは10万出します!」、「30万出します!」、「100万出します!」ってやって、一番高い金額をあげたところが競り落とす。もちろん、声優さんにもギャラは支払われない。
なぜかというと、その作品が上手くメジャータイトルになって、その声優として名前が売れれば、その後でいくらでもお金の取り返し用があるからなんだ。(全てのアニメじゃあないよ。まだ一部でのアニメの話だとは思うけど)
もう、テレビに出ることに対してお金を払う時代になってる。こういうことが、僕らの見えない水面下では行われ始めている。3年前に僕が関西のローカル番組で言ったことが本当になっている。そういう話をこないだ聞いて、「ああ、そこまで来たか!」って思ったんだ。
┃これはヒドい話ではない
こういう話について、「ヒドい!」って思う人もいるかもしれないけど、僕はこれを“当たり前の話”だって思ってる。
これを「ヒドい!」とか「間違ってる!」と感じていること自体が未来格差を生むと思うんだ。これは“善悪”の話じゃあなくて。論理的かそうでないかの話なんだ。
というのも、これまでの声優のキャスティングはどうだったのかっていうと、やっぱりそれは「音響監督の思惑一つ」とか、そういうもので決まってたわけだよね。別に、ベストな配役で決まってたわけじゃあない。
それが最近では“製作委員会制度”でアニメが作られるようになって。リスク分担のために色んな所がお金を出し合って作る都合、たった一人の責任権限で何かを決めるということが出来なくなった。
それと同時に、制作費自体がどんどん高騰化していく。絵も複雑化してるし、CGも入れなきゃいけない。シナリオにも設定にもお金がかかる。でも、DVDは売れない。これは、僕らも知ってることばっかりだよね。
そんなことを考えると、こういう制度が生まれるのも“当たり前の話”だと思うよ。
じゃあ、「声優をやるのに技術は要らなくなるのか?」というと、とんでもない! そのキャスティング枠を大金を支払ってまで競り落とした事務所は、絶対にきちんと技術力のある声優さんを送り込むはずでしょ? 主役クラスの配役に技術のない声優を当ててもしょうがないわけだし。
だいたい、僕らが見ているテレビアニメの声優さんが、演技の上手い順で配置されてるわけないじゃん。そうじゃなくて、“流れ”とか“運”とか、見えない部分で決まってることがすごく多いんだよ。
そういった水面下で行われていたものが、ある種、明確化しちゃった。それがこの“主役声優のオークション制度”で。「オーディションからオークションへ!」っていう、時代の流れになってきたと思ったんだ。
この動画の全長版はクラウドシティと《会員限定放送》ニコ生岡田斗司夫ゼミ 11月号 で絶賛公開中
ライター:矢村秋歩(FREEex)
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