消費税の再増税について、賛否の議論が激しくなってきた。

 今年4月、税率を5%から8%に上げたのに続き、15年10月には10%にする。このことは「社会保障と税の一体改革」として法律で決定済みだ。ただ、法律の付則に、経済状況を見て最終判断する旨の規定がある。

 経済状況を見てみよう。

 今年4月の増税をはさみ、1~3月期は駆け込み需要で年率6%のプラス成長、4~6月期はその反動減から7%を超えるマイナス成長に落ち込んだ。

 11月中旬、安倍政権が注視する7~9月期の成長率が発表される。若干のプラス成長を予測する民間調査機関が多い。

 「この春に増税してから景気は良くない。ここで無理をすれば肝心のデフレ脱却が遠のく」。再増税の先送りを主張する人たちは、こう説く。

 「税率引き上げに伴う税収は、社会保障の支出に組み込まれている。国債発行という借金頼みに逆戻りしていいのか」。予定通りの再増税を唱える人たちは、こう反論する。

■原点から考えよう

 どちらの主張に理があるか。迷った時は原点に返ることだ。

 原点とは、一体改革である。

 ――社会保障という、今を生きる世代が受けるサービスの財源を、国債という将来世代へのつけ回しに頼らない。財源は、税収が景気に左右されにくい消費税が望ましく、誰もが負担する点も「皆で支え合う」という社会保障の理念に沿う――

 そんな考えから消費税収は全て社会保障に充てることと、2段階の税率引き上げを決めたのが、一体改革だった。

 改革の趣旨を踏まえ、消費税率は15年10月から10%に上げつつ、家計への目配り、とりわけ所得の少ない人たちへの配慮に万全を期すべきだと考える。

 「増税しても社会保障が充実した実感がない」。そんな声も聞く。指摘はもっともである。

 合計5%幅の増税のうち、給付の「充実」に回すのは1%分。残りの4%分は、基礎年金の財源の安定化や国債発行を減らすことに費やされる。

 日本の財政難は、そうせざるをえないほど深刻だ。今年度予算も、総額96兆円に対し税収は50兆円。その他収入を充てた残り、41兆円は国債発行に頼る。

 その最大の原因は、予算の3割強を占める社会保障費だ。高齢化に伴って医療や介護、年金の支出は膨らみ続け、少子化対策も欠かせない。現状を放置すれば、「入り」と「出」の差は広がって、将来世代へのつけ回しが際限なく膨らんでいく。

■低所得者への対策を

 今春の消費増税にあわせて、政府は住民税が非課税の低所得世帯を対象に、1人あたり1万円の「簡素な給付措置」(臨時福祉給付金)を決めた。平均的な食料品への支出額をもとに、増税で膨らむ出費を補うのが目的だ。

 再増税にあたり、給付額を増やしたり、対象者を広げたりする必要がないか。本格的な低所得者対策も検討してほしい。減税と給付を一体として制度を整える「給付付き税額控除」などが候補になるだろう。

 政府による支援がない所得層も、消費税以外の税や保険料の負担が過度にならないよう、収入との見合いで注意が必要だ。

 特に、現役世代の中核を占めるサラリーマン世帯である。今春の賃上げ率は大企業、中小企業とも2%前後と十数年ぶりの伸びとなったが、物価は前年から3%上がっており、賃金の実質目減りが続く。企業収益は好調だけに、さらに賃金を増やせないだろうか。

■支えは国民の信頼

 増税を支えるのは、政治に対する国民の信頼である。

 2段階の消費増税を含む一体改革は12年夏、当時政権にあった民主党と、野党の中心だった自民、公明両党が合意して決まった。その後与野党は入れ替わったが、3党には責任がある。

 再増税を最終判断する安倍政権は、自民党内でも「1強」と呼ばれる基盤を誇ってきた。その政権が増税を先送りするようでは、増税それ自体が困難になりかねない。国民が負担増に納得できるよう、歳出全体の徹底的な見直しなど、政策を尽くすことこそが役回りのはずだ。

 国の借金は国内総生産(GDP)の2倍、1千兆円を超え、先進国の中で最悪の水準だ。1人あたりでは800万円超。再増税を見送っては、財政再建への姿勢が疑われかねない。国債や「円」への信用が傷つき、国債相場の急落に伴う「悪い金利上昇」や、不景気の中での「悪い物価上昇」が杞憂(きゆう)とは言い切れなくなる。

 財政難の責任をまず負うべきは、政治だ。その姿勢に国民が疑問や怒りを感じていては、負担増への反発も当然だろう。

 政治が国民への責任を果たす。国民も負担増を受け入れる。そして、将来へのつけ回しを減らしていく。

 消費増税はその一歩である。