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梶原しげる:ミヤネ屋に出演した元モー娘・矢口真里さんにみるワイドショーのリフレーミング効果

BizCOLLEGE 10月30日(木)8時7分配信

■元モー娘矢口真里さんのテレビ出演で感じたこと

「優しい言葉に、今の私は耐えられない」

 昼のワイドショー「情報ライブ ミヤネ屋」で1年半ぶりにテレビ出演した元「モーニング娘。」(モー娘)のメンバー、矢口真里さんの言葉だ。

 元モー娘といえば、加護亜依さんの夫が出資法違反の疑いで逮捕されるなど、世間を騒がせている。当コラムをお読みのビジネスパーソンにとっては「どうでもいい話」かもしれない。しかし芸能マスコミにとっては、中でも矢口さんの「不倫現場で間男と夫が鉢合わせ!事件」は、その発覚以来、彼女の動静を折々に伝えるほどの関心事であった。

「生出演 矢口真里31才 全てを語る」

 こう銘打った番組から、今回は「リフレーミング」について考える。

 「リフレーミング」とは「ものの見方・意味づけの仕方をかえること。生活全般によい変化をもたらすシンプルな方法」(東豊著・日本評論社刊『リフレーミングの秘訣』より)のことを言う。

 東先生は「フレーム=frame=枠組み」を「受けとめ方・意味づけの仕方」ととらえている。そして「ある特定のフレームがその社会・時代に生きる多くの人々に共有され、社会的な拘束力をもつ場合がある〜常識・当たり前のこと・真実などと命名されているもの〜」と論を進める。

 これを私流に勝手な解釈を加えれば、「世間で言われる、常識や当たり前」にとらわれ、身動きが取れなくなった「様々な事態」を打開するためには、「枠組み・意味づけ・受けとめ方を変えてみる」「逆からものを見てみる」試みが有効であると考えた。

 「ボトルの水が半分」という事実を「もう残り半分しかない」と悲観的・否定的に見る人がいれば「まだ半分も残っている」と楽観的・肯定的に見る人もいる。「認知療法」を啓蒙するときに使われる。俗に「ものは言いよう」を説明する時にしばしば引用される「例のあれ」が思い出される。

■ワイドショーが見せた「リフレーミング的アプローチ」

 回りくどくなったが、ワイドショーの司会者、コメンテーターは意図したか、しないかは知らないが、矢口さんとの会話にこの「リフレーミング的アプローチ」をしばしば使っていた。

 昨今の、正論・正義で責め立てる「叩く会見」をしばしば見ている我々にとって、今回のスタジオトークは「超ユル」「超あま」「拍子抜け」とガッカリした人もいたことだろう。その一方で「そういう見方があったのか…」と新鮮に映った方もいたかもしれない。

 はなはだいい加減だが、私は両方の見方が理解できる気がした。

 「不倫現場で夫と鉢合わせ」は「貞操観念の欠如・規範意識が薄いおばかさん」だと「世間」から断ぜられても仕方がない。

 平日昼過ぎに放送されるワイドショー「ミヤネ屋」を支持する人たちには堅実な人生を送る真面目な主婦層が多く含まれると想像する。そういう「規範意識の高い人たち」には「正論を吐く」のが無難と言えば無難だ。

 ところが司会の宮根誠司さんをはじめ、コメンテーターはちょっと違った。

宮根「夫・事務所・ファン・母親・スポンサーにはとんでもない迷惑をかけているが、世間には迷惑をかけたとは言えない。むしろ番組(その他の芸能マスコミ)は矢口さんのおかげでネタに困らなかった」

 この発言を「リフレーミング」と呼ぶと東先生に叱られるが、枠組みを見直す、別の視点から発言する、というポイントだけを取り出せば、「リフレーミング的」と言えなくもない。

■矢口さんを力強く守る元防衛大臣森本敏さんの発言に驚く

 以下の発言も同様な話法で進められている。

宮根「1年半追いかけられ続けたおかげで、矢口さんはテレビ上のブランクがなく、忘れられた存在にならなくて済んだともいえないだろうか」

宮根「この番組に出たあと、家の外に誰も(芸能マスコミ)いないと逆に寂しいよ」

 次のコメントでは「清純なイメージを裏切った汚れたアイドル」とまで言われた彼女に、郷ひろみさんの「若さは無謀と失敗」との言葉を引用してリフレーミング化を図っているようにさえ見える。

「(明暗)いろんな面をもっていろんな見方をされる方が人間的で芸能人らしい」

 「とんでもない!」「許せない」「テレビに出すな!」という「良識派」とは一線を画した見方、表現をかえた「応援モード」を貫いていた。

 今回の番組の詳しい経緯は知らないが、「良識ある市民」を相手にする司会者としては、これはこれで勇気のいる発言だ。

 番組中、最も驚いたのは「リフレーミング的コメント」で、彼女を「力強く守り、支持する発言」をしたのが元防衛大臣森本敏さんだったことだ。

森本「悩み抜いて(1年半)生きたこと。そしてよく考えて生きた経験が、(今後の人生における)言葉の一つひとつの重みを増す」

森本「人間の持っている、本人が気づかない天命・役割を果たしていく(事は大切だ)。(そんな)与えられたもの(矢口さんの試練)と向き合って生きていくことで道が開ける」

■スキャンダラスな出来事に視点を変えさせる効果も

 ここまで張りつめていた矢口さんの表情がわずかに歪み、目に涙がにじんだ。

 その後彼女が口にしたのが「優しい言葉に、今の私は耐えられない…」だ。

 それ以降、彼女の表情が徐々に緩んで来るのを感じた。

 「自宅での不倫現場を夫に見られ、世間から総バッシング」という「最悪な事態」を、逃げずに「試練」だと真正面から受けとめることこそ「新しい人生を切り開くチャンスだ」とのリフレーミン的メッセージが彼女に刺さった。

 「道徳や正義」を重んじる人からすれば「とんでもない」「許せない」だろう。

「元防衛大臣たるものがふしだらな小娘に肩入れしたようなことを言ってどうする!」

 テレビに向かって異論を唱えた方も少なからずいらっしゃったことだろう。

 「番組のスタンスが矢口応援に終始するのに納得いかない」という声も正論だ。

 その一方で、矢口さんの表情、番組での受け答えから、少しだけ視点を変えてこのスキャンダラスな出来事を吟味し直した方もいらっしゃったかもしれない。

■「世間の風」はどう流れて行くのか

「人前に出るのが怖かった」「テレビにも私の顔が出るのが怖くてみられなかった」「親しい友人にも裏切られるんじゃないかと被害妄想から連絡できなかった」

 夫を裏切り、ファンを欺き、所属会社を含む関係者を混乱に陥れた愚行は「1年半の蟄居」で水に流せるものではない!と感じていた人が、心理的に追い込まれた彼女なりの苦しみを聞き、出演者たちの「リフレーミン的アプローチ」に接し、心境の変化があった人もいるかもしれない。

 ただ、ネット上には「こういうことをやるからテレビ離れがおきる」「復帰するな!顔を見たくない!!」という声が今も多い。

 しかし「浮気がバレて離婚した芸能人なんて腐るほどいる。皆がそこで叩く理由が分からん」「芸能人にあまり倫理を求めるのはどうかと思う」…。

 そんな発言も出始めた感じだ。

 今後「世間の風」はどう流れて行くのか皆目見当がつかない。

■政治家の話題は「リフレーミング」が難しい! ? 

 ところで、「ミヤネ屋」のニュースコーナーで報じた、経産大臣の資金管理団体が「SMバーに政治活動費を支出していた問題」の続報が気になった。

 「不倫鉢合わせ」よりこちらの方が罪が重い気もする。しかもこの事実は「リフレーミング」が難しい。

 そしてふと、その前任の女性大臣のことが思い出された。

 矢口さんが放った「優しい言葉に、今の私は耐えられない」というコメント。

 「優しい子」という名前を持つその方は、会見で記者たちの厳しい言葉にじっと耐えていた。そんな彼女に「優しい言葉に、今の私は耐えられない」という場面は訪れるのか。

 番組をみながら、いろんな人の顔が浮かんだ。

最終更新:10月30日(木)13時48分

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